ラマルティーヌ「湖」Lamartine « Le Lac » ロマン主義的抒情 

第4−5詩節には、フランス・ロマン主義のエッセンスがつまっている。

Un soir, t’en souvient-il ? nous voguions en silence ;
On n’entendait au loin, sur l’onde et sous les cieux,
Que le bruit des rameurs qui frappaient en cadence
Tes flots harmonieux.

ある夕のこと、(湖よ)お前は覚えているか、私たちの船は音もなく進んでいた。
遠く、波の上、空の下で、聞こえてくるのは
船を漕ぐ音。リズミカルに、
調和した波を打つ。

ある夕のこと(Un soir)は、今まで描かれてきた情景から、何かが起こるときのきっかけになる言葉。これから、何かが始まる。

しかし、第4詩節では、動詞(voguions, entendaient, frappaient)は全て半過去形で、まだ何かが起こるわけではなく、状況を描く描写が続いている。
この4行の詩句は、ut pictura poiesis(詩は絵画のように、絵画は詩のように)を実現している。つまり、言葉によって絵画的な風景を描き出す。

ロマン主義的な要素として最も重要な言葉は、「覚えているか」t’en souvient-il。過去を思い出す行為こそ、抒情の源泉である。思い出とは過去の出来事ではなく、消え去った過去に対する「現在の感情」に他ならない。その感情がベースになり、不在、喪失、欠如、今ここにないものに対する憧れが生まれる。
しかも、憧れの対象に決して到達することはできない。その思いがメランコリーを生み出し、ロマン主義的な叙情性の起源となる。

第2詩句に出てくる「遠くに」au loinは、恋人たちが他の船から遠く離れ、二人だけでいることを示している。そして、二人は何も語らず(en silence)、遠くから聞こえる船を漕ぐオールの音だけが、静かな空間に響く。

リズミカルに(en cadence), (調和のとれた)harmonieuxは、宇宙の星々が奏でる天球の音楽を思わせる。こうした表現によって、現実の湖が理想の世界へと変容していく。

Tout à coup des accents inconnus à la terre
Du rivage charmé frappèrent les échos ;
Le flot fut attentif, et la voix qui m’est chère
Laissa tomber ces mots :

突然、地上で耳にしたことのない声が、
魔法にかけられた岸辺にこだました。
波が聞き耳を立てた。そして、愛しい声が、
こうつぶやいた。

突然(Tout à coup)は、出来事が始まる合図。実際、この節では、全ての動詞が単純過去で、出来事が順番に物語られていく。
こだま(les échos)が岸辺を打ち(frappèrent)、波が注意深くなり(fut attentif)、愛する人が言葉を漏らす(laissa tomber)。

愛する人は現実の女性でありながら、しかし、この時点で理想化されている。
彼女の声は地上では聞いたことのないもの(inconnu à la terre)で、その声に湖の岸辺さえ魅了される(charmé)。(charmerは本来魔法にかけるという意味。)

昨年、彼女と一緒に過ごした時間は現実だった。しかし、今、思い出すときには、理想化された時間、空間となる。

第4−5詩節で表現されたのは、決して到達できない理想へのメランコリックな憧れ。それこそ、フランス・ロマン主義的な抒情の核となる感情である。

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