ルソーの夢想 自然との一体化 Jean-Jacques Rousseau et ses rêveries

ルソーの夢想の文学的意義はどこにあるのだろうか。

人間は孤独を恐れ、人との繋がりの中で生き、孤独を避けるものと考えられがちである。
しかし、ルソーは孤独の中で夢想し、自己と自然の一体化を通して、自分が存在するという十全の感覚を味わい、絶対的な幸福を得る。
その体験は、どのような意義を持つのだろうか。

17世紀後半の劇作家モリエールは、『人間嫌い』の中で、社会から追放される人間を主人公に据えている。
ルイ十四世が君臨した宮廷社会やサロンでは、その場に相応しく行動し、他者と合わせることが礼節であり、絶対的な価値観を形成していた。
主人公アルセストの友人フィラントや、彼が愛するセリメーヌは、八方美人な行動を常とし、本心を明かさない。それに対して、アルセストは自分の考えを正直に伝えることが正義だと考え、オロントの作った詩を彼の面前であからさまに悪くいったりする。そのために裁判に訴えられ、訴訟に負け、社会生活を捨てて孤独を選択する。

こうしたアルセストの姿が、ルソーの孤独な散歩者の先祖ではないかと、ジョン・E・ジャクソンというスイスの学者は述べている。(『ロマン主義的な記憶と主観性』Mémoire et subjectivité romantiques, José Corti, 1999.)
18世紀後半、ルソーも友人達から迫害されているという思いに駆られてパリを離れ、スイスの自然の中に身を潜めた。社会と個人の対立の中で、価値を個に置いた結果といえる。

一般的な価値観では、社会生活の方が個人の思いよりも強かった時代、ルソーは、自己の内面と自然が一体化するのを感じ、神のような充足感を見出すことで、自己の内面に価値があることを発見したのだといえる。
別の言葉で言えば、社会的な地位ではなく、個人の感情や思いに価値があるという考え方を発明した。

1820年代に生まれるロマン主義は、ルソー的な内面の価値を基本的な思想としている。
外部はここにあり、目に見える。
内面は目に見えず、ここにない不在のもの。
見えるものと見えない物、存在と不在、現実と夢、正気と狂気、文明社会と自然、都市と地方が対立的に描かれ、後者に価値付けが置かれる。大切なものは目に見えない、といったように。

ロマン主義の代表者であるヴィクトル・ユゴーは、1822年に出版した詩集の序文で次のように述べている。

「現実世界の下に理想の世界がある。その世界が輝かしい姿を現すのは、深い瞑想によって、事物の中に事物以上のものを見ることに慣れている人々に対してである。」(『オードとバラッド』序文)

理想の世界、つまりイデア界は、現実世界の上にあると考えるのが普通である。しかし、ユゴーは理想世界が現実世界の「下」にあると言う。下とは、地下という意味ではなく、人間の内面だと考えられる。瞑想は、ルソーの夢想に対応する。
そのように考えると、現実以上のものがあるのは、人間の内面、心の中であることがわかってくる。

ロマン主義において、現実は喪失の時であり、何かが欠けている。だからこそ、決して得ることができないとわかっているもの、ここにはない充足した時、十全さを求める。
そのメランコリックな渇望、理想へのあこがれから、ロマン主義的な抒情が生まれる。

1846年になると、シャルル・ボードレールが、絵画論の中で、ロマン主義とは、「内密さ、精神性、色彩、無限へのあこがれ」と述べる。(『1846年のサロン』)
ルソーの見出した内面が、ユゴーによってイデアと結びつけられ、ボードレールでは詩の原理となったのである。

1862年に書かれた「芸術家の告白」の中には、無限を痛いほど感じる芸術家の自己は、「夢想の中ですぐに失われてしまう」と一節がある。
その夢想という言葉はルソーの夢想を思わせる役割を果たしている。
https://bohemegalante.com/2019/02/20/baudelairle-confiteor-de-lartiste/2/

 以上のように見てくると、17世紀の宮廷やサロンの社会的規範から離れ、孤独の中で内面の価値を見出したルソーの思想が、ロマン主義の根本的な原理であることが理解できる。

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