ランボー「母音」 Rimbaud, « Voyelles » ボードレールを超えて  Au-delà de Baudelaire

ボードレール的世界

1.母音と色の結合

ランボーは最初の2行で、自分の試みを一気に提示する。

Voyelles

 A noir, E blanc, I rouge, U vert, O bleu : voyelles,
Je dirai quelque jour vos naissances latentes :

A 黒、E 白、I 赤、U 緑、O 青:母音、
いつの日か、お前たちの潜在的な誕生を語るだろう。

全ては黒と白から始まる。
彼の時代、黒は色の存在しない状態であり、白は全ての色が含まれるという考えがあった。その考えに従い、最初に「ゼロ」と「全」を提示したといえる。
次に、色の三原則である、赤、緑、青を列挙する。
この色の提示の仕方はとても合理的である。

母音に関して言えば、A, E, I, O, Uという順番が普通だが、最後の二つが逆になっている。その点については、ギリシア語のアルファベットの順番に従ったという説が有力。そこでは、Alfa(アルファ)が最初で、oméga(オメガ)が最後に来る。従って、アルファベットの順にも論理があるように見える。

では、色とアルファベットの繋がりについてはどうだろう。
まず確認したいことがある。色と文字の結合はランボーの独創ではなく、ロマン主義に時代にすでに行われていた。
ドイツでは、オーギュスト・W・シュレーゲルが、« A は赤, O は深紅, Iは空の青, Ü はヴァイオレット, Uは 深い青 »としている。
フランスでも、ヴィクトル・ユゴーは、「A とIは白く輝く母音。Oは赤い母音。(以下略)」と感じた。アルフレッド・ミュッセも音と色の結びつきから、「ラは黄。ソは赤」と、ある手紙の中で記している。
こうした言葉からは、文字や音と色の連想は斬新ではないことがわかる。それと同時に、その組み合わせに、決まった規則がないこともわかる。ユゴーならAとIは共に白だが、ランボーにおいては、Aは黒、Iは赤。

ランボーは、『地獄の季節』の中で、「ぼくは母音の色を発明した。」と宣言する。上のことからして、発明したのは、具体的な組み合わせ、例えば、Uと緑、Oと青の組み合わせということになる。(ちなみに、『地獄の季節』では、OとUの順になっている。)そのつながりに規則も必然性もなく、自由に組み合わせが可能なのだ。

「母音」でこれから語られるのは、母音と色の潜在的な誕生だと「ぼく」は言う。潜在的な(latent)とは、詩人がそれらの結合を行い、新たな組み合わせを自由に生み出すという意味だろう。『地獄の季節』では、次のように語る。

ぼくはそれぞれの子音の形と動きを整えた。そして、直感的なリズムに従いながら、詩的な言葉を発明した。それが自慢だった。その詩的言語は、いつの日か、全ての感覚に対して開かれたものになるだろう。

全ての感覚に開かれた言葉とは、音、リズム、文字の形が聴覚や視覚に訴えかけるものと理解できる。しかし、そこには留まらず、味覚や臭覚、触覚にも働きかけることをランボーは想定している。彼はボードレールを崇拝し、共感覚の理論に共鳴していたのだ。
共感覚は「コレスポンダンス」で見事に表現されていた。
https://bohemegalante.com/2019/02/25/baudelaire-correspondances/

その上で、ランボーはボードレールを超えようという意欲に満ち満ちていた。そこで彼は、面白いやり方を取った。
ボードレールは共感覚の世界の中で主体と客体が一体化し、恍惚感を得る状態を最高の美と考えた。
ランボーは、その考え方に基づきながら、主観的な詩から客観的な詩を目指す。« je est un autre.»(私は三人称単数のような他者である。)という表現はその現れといえる。一人称の« je »に対して、動詞êtreの三人称の« est »を繋げたのだ。その結果、私と彼(それ)の区別は曖昧になる。こうした表現は、ランボーのランボーたるゆえん。彼は面白がり、遊びとして、動詞の活用を「間違えて」文を作ったのだった。

「母音」でも、このような遊びの姿勢、規則を揶揄し違反を犯す姿勢、パロディーの精神、皮肉な笑いが見られる。

この詩が書かれたのは1871年のことと考えられ、ランボーはまだ17歳にもなっていなかった。生意気で、プライドが高く、何にでも反抗的な青年。

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