ランボー「母音」 Rimbaud, « Voyelles » ボードレールを超えて  Au-delà de Baudelaire

2.Aは黒

彼は、最初に提示した順番通り、Aから始める。

A, noir corset des mouches éclatantes
Qui bombinent autour des puanteurs cruelles,

Golfes d’ombre. (…)

A, 輝くハエたちの黒い胴着。
残酷な悪臭たちのそばで、ぶんぶんと飛び回っている。

影の湾たち。(・・・)

最初に目に飛び込んでくるのは、最後の言葉(影の湾たち)が、第1詩節から第2詩節に飛ばされていること。フランス語の詩句では、基本的には一つの行で意味の切れ目が収まることが求められる。次の行にまたぐ技法(句またぎ、enjambement)もあるが、同じ詩節の中に限られれる。ランボーはその規則を大胆な仕方で無視。明らかに、視覚的効果を狙っている。

視覚という視点からは、Aの文字とハエの胴体の形の類似が提示されていることに気づく。本来は無関係であるAと胴体の黒を結びつけるのが、ランボーの最初の工夫。
母音Aが黒を連想させる、新しい世界が生み出される。

その上で、ボードレール的な共感覚に則り、ハエの飛び回る音が« bombiner »という動詞によって喚起され、聴覚に訴えかける。飛び回るのは悪臭(puanteurs)の周り。そのため、臭覚も同時に呼び覚まされる。

「子音の形と動きを整え」ることも忘れてはいけない。
「残酷な悪臭」(les puanteurs cruelles)という表現は不自然である。残酷さは精神的な次元のことで、匂いと普通は結びつかない。
この名詞と形容詞の関係は、一行上の「輝くハエ」(les mouches éclatantes)と対応し、イパラージュ(hypallage)という修辞学的な技法で説明される。名詞と形容詞の関係を交差させ、「残酷なハエ」と「輝く香り」という結びつきが自然なことを前提に、それを逆転させる技法。
その際に、ランボーは、子音« k »の音で、その関係を成立するように整える。« corset », « éclatantes », « cruelles »という言葉に子音« c »がちりばめられている。そのことで、「胴衣」から「残酷」までが、文字と音でつながる。

また、「残酷な悪臭」は、伝統的な詩では拒否される悪や醜そのもの。伝統に反してそうした要素を詩の中で取り上げるのは、ボードレールに従った詩法だといえる。

生前のボードレールは「腐屍」(« Une Charogne »)の詩人として知られていた。その詩の中では、ハエたちが女性の腐敗した遺体の腹の上でブンブンという音を立て、ウジ虫たちの黒い集団が湧き出している。(« Les mouches bourdonnaient sur ce ventre putride, / D’où sortaient de noirs bataillons / de larve […]. ») 
ハエの連想で、ランボーがボードレールに従っていることは間違いないだろう。

Aの最後、第一詩節の中でAとハエとが共感覚で繋げられた後、視覚的効果を作り出すために、第2詩節に向かって句またぎが行われ、今度はAと湾の形がつなげられる。

しかも、その湾には影あるいは闇を意味する« ombre »という修飾がなされる。
伝統的な絵画では事物の影には黒い色が使われてきたが、ドラクロワを経て印象派の画家たちに至り、影にも色があるという認識がされるようになっていた。
ランボーはそれを知った上で、あえて、黒と影を再びつなぎ合わせたのだろう。黒は色の不在であり、ランボーの思考では、無から全てが発生すると考えられるからである。

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