もののけ姫 怒りに曇る目と生きる自然

心の中に潜む自然

ジブリ・アニメは『風の谷のナウシカ』の頃から、エコロジー的だと言われることがある。それに対して、宮崎監督がそうした見方にはっきりと反発してきた。

「もののけ姫」でも、サンとエボシの対立は、森(自然)と鉄(文明)の対立だと見なされることがある。
そのような観点からだと、対立に解決策が示されないこと、アシタカが受け身的でどっちつかずなことに対して、非難がなされることにる。

宮崎監督は、このテーマに関して、古代メソポタミアの神話『ギルガメッシュ叙事詩』との類似を指摘している。
ギルガメッシュ王は、友人と共にメソポタミアには存在しない杉を求めて旅に出、神の命令に反して怪物を倒し、杉を手に入れる。
このように、紀元前5000年の昔から、人間は自然と闘い、神に反抗してまでも自分たちの文明を発展させてきた。
その意味で、人間は自然を破壊するように運命づけられた呪われた存在だと、監督は考えている。

しかし、結果の善悪は、それを判断する人の視点によることを思い出す必要がある。開発と自然保護のバランスは微妙で、正しい結論は出ない。アシタカがどっちつかずの姿勢でいるのは、そのためなのだ。

自然を守るためにタタラ場が消滅すれば、人間の世界から鉄がなくなる。
他方、朝廷からの命令を受けたジゴ坊にシシ神の首を持っていかれ、自然が荒れ狂った状態を放置すれば、タタラ場が破壊されるだけではなく、自然そのものもいつか死に絶えることになる。

「曇りのない目で物事を見る」としたら、自然と文明の対立には絶対的な解決策はなく、その時その時でなんとかやりくりしていくほかない、ということになる。
そして、そのやりくりがどのようなものなのか、どうしたら共存でき、調和を保ているのか、わからない。。。
この中途半端さこそが、「もののけ姫」のエコロジーに関するメッセージだと考えられる。

ただし、ここで終わっては、もう一歩進んだメッセージが見えてこない。

そのメッセージとは、ジブリ・アニメの中で自然が美しく描かれることと関係し、宮崎監督の全ての映画の本質と関わっている。
そして、それが「もののけ姫」では、ノーリターンの物語構造の中で、見事に表現されている。

もっとも本質的なメッセージは、自然は生命そのものであり、死ぬことはないということ。「生きろ」という映画のコピーも、それと関連している。

確かに、シシ神は死ぬように見える。しかし、これは半分は正解で、半分は間違い。
最後の場面、サンは回復した美しい自然の光景を目にして、悲しみにくれ、こう言う。

甦ってもここはもうシシ神さまの森じゃない。シシ神さまは死んでしまった。

それに対して、アシタカは応える。

シシ神は死にはしないよ。命そのものだから。

一つの自然は人間が破壊し尽くしてしまうかもしれない。しかし、それでも、命そのものは続く。また、別の自然がどこかで生まれてくる。
「もののけ姫」の根本的な思想は、このように表現できるだろう。

宮崎監督は、それを日本人の原始的な宗教心あるいは精神性だと考えている。

今でも多くの日本人の中に宗教性として強く残っている感情があります。それは自分たちの国の一番奥に、人が足を踏み入れてはいけない非常に清浄なところがあって、そこには豊かな水が流れ出て、深い森を守っているのだと信じている心です。(ベルリン国際映画祭、44の質問)

最初に引用したインタヴューでは、次のように言われていた。

現代人になったくせにまだどこかで、いまだに足を踏み入れたことのない山奥に入っていくと、深い森があって、美しい緑が茂り、清らかな水が流れている夢のような場所があるんじゃないかという、そういう感覚をもっているんですね。
そして、そういう感覚を持っていることが、人間の心の正常さにつながっているような気がしています。(『清流』1997年8月号)

もっとも基本的な自然とは、心の中にある。それをイメージで表現すると、山奥の森の中に泉があり、清らかな水が流れている、ということになる。
「もののけ姫」のシシ神の泉であったり、「風の谷のナウシカ」のフカイの奥に潜む清流。ジブリ・アニメ全体を通して出てくる「水」のイメージ全てに通じるものだろう。
この夢のような場所があるという感覚を持つことが、人間の心の正常さにつながると、宮崎駿監督は考えている。

実際の解決策を求める人たちは、こんな中途半端な言葉には満足しないかもしれない。
しかし、清い水をたたえた深い森こそが生命そのものであり、それさえ保っていれば、外部の自然は形を変えながらも生き続けることになる。
こうした宗教性、原始性の存在を気づかせたいというのが、「もののけ姫」の「もう一歩進んだメッセージ」だと考えても、間違ってはいないだろう。

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