中原中也 「夜更の雨」 ヴェルレーヌの影を追って

倉庫の 間にや 護謨合羽(かつぱ)の 反射(ひかり)だ。
  それから 泥炭の しみたれた 巫戯(ふざ)けだ。
さてこの 路次を 抜けさへ したらば、
  抜けさへ したらと ほのかな のぞみだ……
いやはや のぞみにや 相違も あるまい?

第2連でも、放浪は続く。倉庫の間を通り、路地を歩く。
雨合羽に電信柱に付けられた電気の光が当たり、道は雨でぐちゃぐちゃ。
早く路地を抜けたいと思う。

ここでもまた、言葉の反復がリズムを生みだす。

反射(ひかり)だ/巫戯(ふざ)けだ。
抜けさへ したらば/抜けさへ したらと 
ほのかな のぞみだ/いやはや のぞみにや 

自動車 なんぞに 用事は ないぞ、
  あかるい 外燈(ひ)なぞは なほの ことだ。
酒場の 軒燈(あかり)の 腐つた 眼玉よ、
  遐(とほ)くの 方では 舎密(せいみ)も 鳴つてる。

今度は、「な」を使った言葉遊び。
反復しながら、微妙に変化させていく。
言葉にリズムが生まれ、詩句が歌うように感じられる。

なんぞに/ないぞ
なぞは/なほの 

最後は、意味に基づく言葉遊びも行われる。
舎密(せいみ)というのは、中也の時代、 chimieの翻訳語であり、化学という訳語と併用されていた。
ここでは、鳴くという動詞の主語となり、音的にはセミを思わせることもできる。
従って、セミが鳴いているという意味にも、化学工場が音を立てているという意味にも取ることができる。
こうした言葉遊びは、ヴェルレーヌやランボーの得意技である。

こうして、ヴェルレーヌの雨から出発し、中也は居酒屋に到着する。
中には、飲んだくれたヴェルレーヌが待っているのだろう。

第3連の4行は、ほとんどが8/8のリズムで構成され、その唄に合わせて、赤い提灯がぶら下がる、鄙びた居酒屋が浮かび上がってくる。

これが、中也のイメージするヴェルレーヌの世界なのだろう。

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