ボードレールの美学 想像力と現前性

表出

a. 規則

芸術家は、現実世界にある対象と自己の内的世界の「定義できない混合物(amalgame indéfinissable)」を、作品として表出する。

ボードレールはその際にも想像力の働きを考える。
想像力は分析と同時に総合もする。
分析した要素を総合することが、作品の制作となる。
そして、総合する際にも、分析の時と同じように、魂の最も奥にある各人の起源となる「規則」に従って行われる。

ボードレールにとって規則は自由を束縛するものではなく、むしろ独創性を産み出すものだと考えられる。というのも、規則は、心的な組織の要請によって作り出されたもので、個々の芸術家のオリジナリティが開花するのを助けるものだといえるからである。

b. スピード感と統一感

それぞれの芸術家固有の気質に基づいた規則に従い、「定義できない混合体」を作品として実現するためには、はっきりと表出することが重要だとボードレールは考える。
「1859年のサロン」では、「夢の言語がはっきりと(très nettement)翻訳されるためには、非常にはっきりとした仕上げ(exécution très nette)が必要」と記している。

では、はっきりとした仕上げとはどのようなものだろう。

まずは、スピード感。
夢の言語(作品のコンセプト)に付随する特別な印象が失われないためには、素早く描くことが必要だという。
このスピード感は、ウージェーヌ・ブーダンや印象派の画家達の手法を思わせる。

Eugène Boudin, Les jetées marée haute, Trouville
Claude Monet, Le Port de Trouville

この二枚の絵画は、古典主義的絵画と比較すると、細部が等閑にされ、素描にしか見えないだろう。

スピード感は、全体の統一感ともつながる。
その統一感は、支配的な色彩によって生み出される。

一つの画布は一つの支配的な色で統一され、色の混在になってはいけない。そのため、大きな画布では大きなタッチで描くことが必要で、タッチが混ざることは避ける必要がある。
そして、支配的な色彩がはっきりしていれば、絵画にエネルギーと新鮮さがもたらされると、ボードレールは言う。

近くから見ると絵具の塊にしか見えないが、一定の距離を置いてみると芸術家のコンセプトをしっかりと捉えることができる。それもまた印象派絵画の特色である。

Claude Monet, Nymphéas, 1907

c. 「新たなるもの」の創造

こうして生み出される作品は、モデルとなった現実の事物や事象の再現ではなく、「新たなるもの」として存在する。

こう言ってよければ、対象を眺め、その対象を自分の中に取り込み、イメージとする。そのイメージを芸術家固有の規則に従って表出することで、「新たなるもの」が生み出されるのである。

その創造の原理は想像力にある。
想像力は、「新しい世界」を作り出し、「新たなるもの」の感覚を生み出す。

そのようにして生み出されたものは、モデルである自然と芸術家の内的世界の混合物(思い出)が表現されたものであり、それ自体として価値を持つ。
このボードレールの芸術観から、芸術の原理が再現性ではなく、作品そのものの現前性へと変化したことが理解できる。

具体的な一つの例を取り上げてみよう。

モーリス・ユトリロの母親、シュザンヌ・ヴァラドンは多くの画家達のモデルであり、彼女自身も画家だった。

シュザンヌの写真、シュザンヌによる自画像、ロートレックの描く肖像画、ルノワールの作品を見ていこう。

Suzanne Valadon, autoportrait
Lautrec, Portrait de Suzanne Valadon
Auguste Renoir, Portrait de Suzanne Valadon

これらの肖像画は、同じ女性を描いたとは思えないほど、画家の個性が際立っている。
モデルであるヴァラドンを再現することが主眼でははく、それぞれの肖像画そのものが一人一人の女性を表していて、それぞれが独自の価値を持っていることを実感できるのではないだろうか。

Edourad Manet, Olympia

「新たるもの(le nouveau, le neuf)」とは、この1枚1枚の絵画に描かれた女性であり、絵画が生み出す感覚(sensation)のことを指す。

その「新たなるもに」に「美」を見出す。
モデルの美醜ではなく、作品そのものが生み出す「美」。それが問題なのだ。

ボードレールの美学は、テーマを同時代の社会の醜や悪に定めながら、再現性の芸術観から現前性の芸術観への展開をもたらしたのだと言うことができる。

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