ボードレール 「旅への誘い」 Baudelaire « L’invitation au voyage » その1 韻文詩

第2詩節では、動詞が条件法に置かれ、夢の国の様子が想像上のこととして描かれていく。

Des meubles luisants,
  Polis par les ans,
Décoreraient notre chambre ;
  Les plus rares fleurs
  Mêlant leurs odeurs
Aux vagues senteurs de l’ambre,
  Les riches plafonds,
  Les miroirs profonds,
La splendeur orientale,
  Tout y parlerait
  À l’âme en secret
Sa douce langue natale.

Là, tout n’est qu’ordre et beauté,
Luxe, calme et volupté.

家具が輝き、
  年月によって磨かれ、
我らの部屋を飾るだろう。
  本当に稀な花々が、
  その香りを溶け込ませるのは
琥珀のおぼろげな香り、
  豪華な天上、
  奥の深い鏡、
オリエントの輝き、
  そこでは、全ての物が話すだろう、
  魂に、こっそりと、
故郷の甘い言葉を。

彼方では、全てが整然とし、美しい、
豪華で、静か、そして官能的。

二人の部屋では家具が美しく輝やいている。その輝きは、新しさからではなく、年月によって磨かれたもの。

Johannes Vermeer, La Liseuse à la fenêtre

続く9行は、一つの文。第一詩節以上に区またぎ(enjambment)が続く。
そして、この長い詩行の連続が、夢の国の物憂い雰囲気を作り出す。

主語は、希少な花々、天井、鏡、オリエントの輝き、そして、それらを「全て(tout)」が受け止める。
動詞は、話す。
目的語は、故郷の甘い言葉。

Maria van Oostervijk, Vase avec des tulipes, roses et d’autres fleurs avec des insectes

物憂い雰囲気の中心には花がある。
花は視覚以上に、臭覚に訴えかける。そのために、ボードレールは、花の香り(odeur)を琥珀(ambre)の香り(senteur)と混ぜ合わせ、琥珀の香りにはおぼろげな(vague)という形容詞を付ける。

そうした共感覚の世界では、一つ一つの感覚が相互に入り組み、混乱し、ぼんやりとした印象を与える。
ボードレールは、「コレスポンダンス」の中で、自然という神殿を歩くときに聞こえる音を、混乱した言葉(de confuses paroles)と捉えている。
https://bohemegalante.com/2019/02/25/baudelaire-correspondances/
その言葉が、ここでは、「故郷の甘い言葉」と呼ばれる。

Pieter de Hoch, Family portrait in an opulent interior

この夢の部屋は、魂の故郷であり、起源の地。全く知らない新しい場所ではなく、すでに知っているという印象を与える。

その印象をボードレールは、天井、鏡、オリエントの輝きで具体化する。
この時に彼が思い描いているのは、中近東ではなく、アジア・オリエント貿易の入り口であるオランダだと考えられている。

Johannes Vermeer, Vue de Delft

第3詩節では、部屋の外に目をやり、運河のある風景が描き出される。

  Vois sur ces canaux
  Dormir ces vaisseaux
Dont l’humeur est vagabonde ;
  C’est pour assouvir
  Ton moindre désir
Qu’ils viennent du bout du monde.
  – Les soleils couchants
  Revêtent les champs,
Les canaux, la ville entière,
  D’hyacinthe et d’or ;
  Le monde s’endort
Dans une chaude lumière.

Là, tout n’est qu’ordre et beauté,
Luxe, calme et volupté.

  見ておくれ、この運河で、
  何艘もの船が眠るのを、
放浪が好きなのに。
  満足させるためなんだ、
  お前のほんのちょっとした欲望を、
だから、世界の果てから船がやって来る。
  ーー沈む太陽が
  覆っていく、野原や、
運河や町全体を、
  黄金色とヒヤシンスの色で。
  世界が眠り始める
暖かい光の中で。

彼方では、全てが整然とし、美しい、
豪華で、静か、そして官能的。

「見ておくれ。」という呼びかけは、リアルな風景を目に浮かび上がらせる効果がある。(文体論では、Hypotyposeと呼ばれる手法。)

Jan van de Cappelle, A Calm

運河に浮かぶ船も、風景全体も、全てがまどろみ始める。
そこに見える船は、愛する女性のほんのわずかな望みさえもすぐに叶えてくれるために、世界の果てからやって来たのだ。

その時、夕日が景色全体を穏やかな光で包み込んで行く。
その光で覆われる野原(les champs)、運河(les canaux)、町全体(la ville entière)は、2音節、3音節、4音節と増加し、光によって徐々に覆われていく様子を音の数の増加によって表現している。

さらに、太陽の黄金の光(d’or)と眠る(s’endort)が韻を踏み、全体(entière)と光(lumière)の韻によって囲まれる。
その抱擁韻(rimes embrassées)は、光が世界全体を覆い、全てが眠りにつくことを、見事に表現している。

読者も、呼びかけられた女性と同様に、この詩句の音楽性と絵画性によってまどろみ、美の世界へと誘われる。
その美の世界とは、リフレインで表現される世界に他ならない。
Là, tout n’est qu’ordre et beauté,
Luxe, calme et volupté.

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