ボードレール 「旅への誘い」 Baudelaire « L’invitation au voyage » その2 散文詩(1/2)

第2詩節までは詩に関する一般論が語られてきたが、第3詩節になると、愛する人との語らいの中で、今読まれつつある散文が詩であることが示される。

第3詩節

Tu connais cette maladie fiévreuse qui s’empare de nous dans les froides misères, cette nostalgie du pays qu’on ignore, cette angoisse de la curiosité ? Il est une contrée qui te ressemble, où tout est beau, riche, tranquille et honnête, où la fantaisie a bâti et décoré une Chine occidentale, où la vie est douce à respirer, où le bonheur est marié au silence. C’est là qu’il faut aller vivre, c’est là qu’il faut aller mourir !

君は知っているのか? 冷たい惨めさの中で私たちを捉える熱病を、知らない国へのノスタルジーを、苦しいほど知りたいと思う好奇心を。君に似ている地。そこでは、全てが美しく、豊かで、静かで、誠実。空想が作り出し、飾り付けをしたのは、西洋の中国。生は吸い込むと心地よい。幸福が沈黙と一つになっている。そこに行き、生きること、そこに行き、死ぬこと!

夢の国への旅立ちは、ノルタルジーに導かれて向かう、故郷への帰還でもある。しかし、その故郷を知らない。知らないからこそ、ますます惹かれる。旅立ちへの思いはますます強くなる。

ボードレールは、最初この詩節で、ゲーテの『ウイルヘルム・マイスター』から取られた「ミニョンの唄」を下敷きにし、「もしぼくが君のミニョンだったとしたら」と書いていた。
「ミニョンの唄」は、「君知るや、レモンの花咲くあの国を」で始まり、ドイツに連れ去られた少女が、故郷のイタリアを思う、痛切なノスタルジーを歌っている。
その感情は、シューベルトが作曲した「ミニョンの唄」からも、はっきりと感じ取ることができる。

理想の美へ向かう気持ちを「熱病」「ノルタルジー」「苦しいほどの気持ち(angoise)」と定義した後、目的地である理想の国が描写される。

その際、これまで使われた表現がそのまま使われ、この散文が自らを詩であると宣言している。
それは、どういうことか?

散文と韻文の違いを考えてみよう。

韻文は、言葉の意味を伝える目的と同じ比重で、言葉そのものへの注意を引く。意味内容と同時に、言葉の表現そのものに注意を向け、そこに価値を置く。

散文では、多くの場合、考え、感情、情報を相手に伝えることが目的とされる。従って、意味さえ伝われば、表現そのものに注意が向かなくても問題はない。
表現は透明で、スムーズに意味が伝わる方が好ましいとさえいえる。
そして、意味が伝われば、同じことを言う必要はない。同じことの反復は冗語と呼ばれ、好ましいことではない。

こうした散文の性格を前提にして、ボードレールは、散文でポエジーを生み出すために、あえて同じ言葉や表現を積み重ねる。

「全てが美しく」以下の文は、前にすでに書かれたことの反復であり、まったく同じ表現を使ったり、少し変更を加えヴァリエーションを生みだしている。

さらに、生きる(vivre)、死ぬ(vivre)は、韻文詩「旅への誘い」の第一詩節を参照している。

D’aller là-bas vivre ensemble !
  Aimer à loisir,
  Aimer et mourir
Au pays qui te ressemble !

彼方に行き、一緒に暮らすんだ!
  おもいきり愛し、
  愛し、そして死ぬ、
君に似たあの国で!

反復を知ることで、意味と同時に、言葉の表現そのものに焦点が当たっていることがわかってくる。
そのことによって、意味を伝えるための道具以上の価値を持つ散文が存在しうることが示されることになる。
ボードレールの目的は、散文が詩として成立する可能性を追求することだった。

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