ポール・ヴァレリー 「海辺の墓地」 Paul Valéry « Le Cimetière marin » 4/4

第24詩節、意識は「私」から再び海へと向かい、海に向かって呼びかけが行われる。

Oui ! grande mer de délires douée,
Peau de panthère et chlamyde trouée,
De mille et mille idoles du soleil,
Hydre absolue, ivre de ta chair bleue,
Qui te remords l’étincelante queue
Dans un tumulte au silence pareil,

そうだ! 錯乱に恵まれた偉大な海よ、
豹の皮よ、穴の開いた外套よ、
数限りない太陽の偶像たち、
絶対の海蛇よ、お前の青い肉に酔い、
お前は、自らの燃えさかる尾を再び噛む、
沈黙に似た騒乱の中で、

海は風に吹かれて、錯乱したように荒れ狂っている。
そして、しぶきを立て飛び挙げる波には太陽の光が当たり、キラキラときらめいている。
詩人はその光景を、豹の皮(peau de panthère)や、穴の開いたマントに見立てる。マントの穴は、青い海原の上で無数にきらめく光の輝きだが、詩人はそれを太陽の生み出す偶像とみなす。

大海原は海の怪物ヒドラ。
青い海に大きな波が立ち上がり、その姿は、大蛇が自分の燃えるような尾を噛んでいる(remords l’étincelante queue)ように見える。

葛飾北斎、富嶽三十六景、神奈川沖浪裏

この荒れ狂う海を前に、海辺の墓地で瞑想にふけってきた「私」は、風が立つのを感じる。(第25詩節)

Le vent se lève !… Il faut tenter de vivre !
L’air immense ouvre et referme mon livre,
La vague en poudre ose jaillir des rocs !
Envolez-vous, pages tout éblouies !
Rompez, vagues! Rompez d’eaux réjouies
Ce toit tranquille où picoraient des focs !

風が立つ!。。。 生きようとしなければならない!
巨大な空気が、私の本を広げ、また閉じる。
波が、粉末になって、岩々から吹き挙げている!
舞い上がれ、キラキラと眩しいページたちよ!
粉砕しろ、波たちよ! 粉砕しろ、喜びに満ちた水で、
静かな屋根、三角帆の小舟が餌をついばむこの屋根を!

墓地の一角に腰を掛け、地下の死者たちを想い、大海原を思い、自己を想い、そこに佇んでいた「私」。
本の存在を忘れ、精神は肉体を離れ、自己の限界を忘れて、パラドクスがはびこる世界に入り込んでいた。
それは生を失った、死者たちの世界。

その時、風が吹き、「私」が手にしている本のページを開けたり、閉じたりする。それは生命の息吹であり、「私」を再び生の世界へと導くサインとなる。

目を開けると、波が岩に当たり、砕け散っている光景が広がっている。
海には、小さな小舟が、三角形の帆を浮かべて、ちょうど屋根の上の小鳥のように見える。
この最後の一行は、「海辺の墓地」の冒頭の一行「この静かな屋根、そこには鳩が歩き(Ce toit tranquille où marchent des colombes)」への回帰に他ならない。

しかし、それは最初に墓地にやって来たときの「私」の意識に戻ることではない。
「私」は、身体としての個体性を保ちながらも、海でもあり、墓石の下の死者たちの集合体でもある。普遍でありながら、個別でもある。個別の生を生きながら、意識の根源的な普遍性も合わせ持っている。

「生」とは、そうした二つの見え方をする統一体の流れであり、力でもある。
そして、「私」は「生」に参加している。
「海辺の墓地」での思索は、そうした認識に「私」を導いたといえるだろう。

最後に、144行の詩句を読み切った報いとして、ドビュシーの「海」の第2楽章「波の戯れ」の音の流れに、身と心を任せることにしよう。

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