マラルメ 「エロディアード 舞台」 Mallarmé « Hérodiade Scène » 言語と自己の美的探求 2/7

続くエロディアードの言葉は、乳母の最後の言葉で残された3音節を引き受けるところから始まる。

   H.                

Reculez.
Le blond torrent de mes cheveux immaculés,
Quand il baigne mon corps solitaire le glace
D’horreur, et mes cheveux que la lumière enlace
Sont immortels. Ô femme, un baiser me tûrait
Si la beauté n’était la mort…

          H.(エロディアード)  

後ろに下がってください。
私の汚れのない髪の、金色の爆流が、
私の孤独な体を浸す時、この体が凍りつくのです、
あまりの怖ろしさのために。私の髪は、光に包まれ、
不死なのです。おお、女よ、たった一度の口づけさえ、私を死に追いやるでしょう、
もしも、美が死でないとしたら。

エロディアードは、彼女に近づき、接吻をしようとした女性に向かって、近づくなと命じる。
その時、彼女はまだその女性が自分の乳母だとは気づいていない。あるいは、気づかないふりをしている。
そのために、女よ(Ô femme)と呼びかけ、彼女への命令も、下がってください(reculez)と、距離を置いた言い方である« vous »に対する要求にしている。

エロディアードの体は、美しい金髪で覆われている。
その金髪は、不滅の美、永遠の美の象徴であるが、エロディアードは、その永遠を恐れ、怖ろしさのあまり凍り付いてしまう。

その一方で、時間が全てを死に追いやる現実も恐れている。
その現実を象徴するのが、乳母の口づけ。
現実を生きる乳母に触れられれば、彼女は死んでしまうことになるだろう。

この5行の詩句が伝えるのは、美に対するマラルメの逡巡である。

過去の美であれば、女神のように不滅であった。例えば、ミロのヴィーナス。

しかし、それは過去の美であり、不死、不滅の美は現代の美ではありえない。
だからこそ、汚れのない黄金の髪で体を覆われれば、現代の美を体現するエロディアードは、恐怖で凍りつくことになる。

その一方で、乳母に代表される現在の時間を受け入れることになれば、美が死んでしまうことにもなりかねない。

このエロディアードの詩句も、リズムと音と意味の連結が素晴らしく工夫されている。

Le blond torrent / de mes // cheveux / immaculés,
Quand il baigne mon corps // solitaire / le glace
D’horreur / et mes cheveux // que la lumière enlace
Sont immortels. / Ô femme, // un baiser me tûrait
Si la beauté n’était // la mort…

最初の文の主語は« le blond torrent »であり、動詞は2行目の最後に置かれた« glace »。
Le blond torrent le glace d’horreur. 金髪の爆流が、それ(体)を恐れで凍らせる。

この基本文型に基づきながら、いくつかの言葉を際立たせるための詩的技法が用いられている。

先ず、リズムを見ておこう。

mes とcheveuxの間に6/6の切れ目があることで、cheveuxに注目がいく。
同じように、corps とsolitaireの間にも切れ目があり、solitaireに注目がいく。

また、d’horreurは前の行(le glace)の続きであり、ルジェ(rejet)という技法で強調されている。

4行目の最初の6音節は4/2のリズムで、2の部分に « Ô femme »が置かれることで、女よという言葉にアクセントが置かれている。

5行目は、6/2(後の4は次の行)で、2の部分(la mort)が強調される。

次に音色と意味の関係を見ていこう。

mes cheveuxが反復されることで、これらの詩行の中心的なテーマが「私の髪」であることが示される。

その髪に付けられた形容詞 immaculés(汚れがない)の[ im ]の音が、immortelsで反復され、汚れのなさと不死の繋がりが音によって示される。

金色を意味するblONdに含まれる[ on ]の音は、乳母がエロディアードに問いかけたキーワードである影(OMbre)と共鳴している。
そして、私の体のmONに反響する。
Ombre – blond – mon

さらに何度もこだまするのは、[ o ]の音。
乳母の最後の言葉 ignOréから始まり、tOrrent, cOrps, sOlitaire, hOrreurと反響し、最後に、女よと呼びかける際の Ô から、bEAUté、そして、mOrtに行き着く。
最終行、美に含まれるオ(eau)の音と死に包まれるオ(o)の対応は、見事としか言いようがない!

こうした巧みな音の配置は、決して偶然ではなく、マラルメが意識的に構築したものである。

Le blond torrent de me cheveux immaculésと声に出して読み、次にmon corps solitaireに出会うと、音色の効果をはっきりと感じ取ることができる。

そして、リズムで示される息継ぎと音色で示される声の調子を感じられるようになると、マラルメという詩人の息づかいや話し声が聞こえてくるようになる。

https://bohemegalante.com/2019/03/11/musee-mallarme/

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