おもひでぽろぽろ Souvenirs goutte à goutte 思い出と向き合う

高畑勲が監督した「おもひでぽろぽろ」は、アニメ作品にありがちなファンタジー的な要素がなく、特別な主人公の特別な冒険物語とは正反対の作品。

主人公タエ子は27歳。独身で、東京の会社に勤めている。
物語は、田舎に憧れている彼女が10日間の休暇を取り、農業体験をするために山形の親戚の家に行くところから始まる。
田舎に行くと決めた時から、突然、小学校5年生の思い出がポロポロとこぼれ落ちるように蘇り、彼女の心を一杯にする。

山形では、親戚の家族に混ざって紅花を摘む作業を手伝ったり、有機農業に取り組むトシオに有機農業の手ほどきを受けたり、蔵王にドライブにいったりする。東京に戻る前の日、親戚のおばあさんからトシオの嫁になってくれと突然言われ困惑する。しかし、結局、そのまま東京に戻る電車に乗る。

しかし、電車の中で突然考えを変え、次の駅で電車を降る。そして、トシオが迎えに来た車に乗り、親戚の家に戻る道を辿る。

特別なことが何もなく、ただ一人の女性が田舎で農業体験をし、一人の男性と仲よくなるという物語。

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風立ちぬ 生きることと美の探究と

「風立ちぬ」は、「紅の豚」の延長線上にあるアニメだといえる。

主人公の堀越二郎は、飛行機の設計技師。彼の友人である本庄は、兵器としての戦闘機を制作し、彼の爆撃機は殺戮兵器として空を飛ぶ。
それに対して、二郎は、「ぼくは美しい飛行機を作りたい。」と言い、実用ではなく、美を追い求める。

そうした対比は、「紅の豚」においては、イタリア軍のエースパイロットであったマルコと、軍を離れ自由に空を飛ぶことの望むポルコの対比として表されていた。
https://bohemegalante.com/2020/03/12/porco-rosso/

そうした類似に基づきながら、「風立ちぬ」では、美にポイントが置かれ、さらに、二郎と菜穂子の恋愛物語が、もう一つの側面を形成している。

その恋愛物語は、堀辰雄の『風立ちぬ』に多くを負いながら、生と死の複雑な関係を通して、生きることの意味を問いかけている。

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紅の豚 大人を主人公とした、大人のためのアニメ

「紅の豚」の主人公は、豚の顔をした中年のパイロット。格好良くもないし、英雄でもない。何か特別なことを成し遂げるわけでもない。

そんな作品に関して、宮崎駿監督は、「紅の豚」の演出覚書の中で、「疲れて脳細胞が豆腐になった中年男のための、マンガ映画であることを忘れてはならない。」と書いている。

また、「モラトリアム的要素の強い作品」という言葉を使い、大きな流れから一旦身を引き、執行猶予あるいは一時停止の状態にいる人間の状況がテーマであることを暗示する。

そのような状況設定に基づき、「紅の豚」は私たちに、宮崎監督の考える「大人」、そして「人間が個人として生きることの意義」を明かしてくれる。

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ポム いつでも何度でも Pomme Itsudemo nando demo

2020年のVictoire de la Musiqueで Album révélationを受賞したポムPommeは、2018年に日本に旅行して以来、日本が好きになり、日本語を勉強したそうです。

Youtubeには、彼女が日本語で歌う「いつでも何度でも」がアップされています。

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かぐや姫の物語 自由と自然 Le conte de la Princesse Kaguya liberté et nature

高畑勲監督が2014年に発表した「かぐや姫の物語」は、スタジオジブリの作品としては、まったくヒットしなかった。
同じ年に公開された宮崎駿監督の「風立ちぬ」が810万人(興行収益120億円)だったのに対して、「かぐや姫の物語」は185万人(25億円)だったと言われている。

フランスで公開された時には、芸術性が優れているという点で評価が高く、日本でも一部からは優れたアニメとして認められている。しかし、人気は出なかった。その理由はどこにあるのだろうか。

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となりのトトロ 夢だけど夢じゃない世界 トトロのいる自然

「となりのトトロ」は、ジブリ作品の中で最も平和で、戦うシーンは一つもなく、何も特別な事件は起こらない。

父と二人の娘が田舎の一軒家に引っ越してきて、入院している母の帰りを待ちわびているだけの物語。

唯一大きな出来事は、4歳の妹が、遠くにある病院にトウモロコシを届けたくて、迷子になってしまうことだけ。

映画の大半は、トトロというお化けとの出会いを空想するメイとさつき姉妹の日常生活の描写に費やされる。

そんな単純で単調なはずのアニメのどこに、これほど観客を虜にする魅力があるのだろうか。

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風の谷のナウシカ 交感する力

「風の谷のナウシカ」は、「火の7日間」という大戦争によって巨大文明が滅んだ後、1000年後に世界が行き着いた姿を描いている。

地上は猛毒を撒き散らす「腐海」が侵食し、オームが僅かに残る都市や谷の村を襲うこともある。風の谷の隣国ペジテや西方の軍事国家トルメキアでは、今でも覇権を争い、最終兵器「巨神兵」を奪い合ったりしている。

風の谷の少女ナウシカは、そうした強大な敵を前にして、一体何をしようとし、何ができるのだろうか。
メーヴェに乗り、空を飛び回る姿はすがすがしいが、戦うための武器は持たず、無力さに打ちひしがれることもある。

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芸術作品の解説は必要か

Piet Mondrian, Composition avec rouge, bleu et jaune

絵画でも音楽でも、見たり聞いたりするだけでいい。頭で理解しようとすると、美が失われてしまう。

知的な解釈は、感覚的に感じ取る美を妨げ、素直に楽しむのを妨げる。

映画にしても、詩や小説でさえ、そのように言われることがある。

2019年度のバカロレア(L)での哲学の試験問題の一つは、「芸術作品を解説して何の役に立つのか」というものだった。

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