日本最古の物語と言われる『竹取物語』は、平安時代中期950年位の時期に成立したと考えられている。

その時代には、仏教伝来(538年)後、約400年の歳月を経て、大陸の圧倒的な文化的影響の下で、日本的な文化が形成されつつあった。
894年に遣唐使が廃止され、大陸との文化の交流が減少する中、貴族たちの文化は「和様化」の方向に進む。
905年には『古今和歌集』が編纂され、1000年前後には『枕草子』や『源氏物語』が書かれた。
『竹取物語』は、そうした時代にあって、極楽浄土での魂の救済より、現世における人間的な感情を好む日本的な心のあり方を、皮肉とニューモアを交えて語っている。
月に昇天する前、かぐや姫は帝に、「君をあはれと思い出でたる」と記した和歌を送る。その「あはれ」こそ、日本的心性が愛するものであり、日本的な美意識の根源となる心持ちである。