グリム童話の楽しさ 3/3

非現実世界への入り口

グリム兄弟は、童話集第2版の序文の中で、残酷な場面の正当性を主張しているが、その一方で、残酷な行為からリアリティを取り除く民話的な語り口も採用している。

その最初の手段が、物語の入り口に置かれる「昔むかし」という言葉である。この決まり文句は、これから話される出来事が、架空の世界で起こることを予告する役割を果たしている。

「かえるの王様」では、手書きの原稿にはなかったその表現が、初稿で付け加えられる。そして、その有無によって、読者が受ける印象は全く違うものになる。

王さまの末の娘が森へ出かけて行きました。(初稿)

むかしむかしあるところに王さまの娘がいました。この娘が森へ出かけて、冷たい泉のほとりに腰をおろしました。(初版)

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グリム童話の楽しさ 2/3

口頭伝承から読み物へ

1819年に出版された『子どもと家庭のための昔話(メルヒェン)集』第二版の序文で、グリム兄弟は、自分たちの集めた物語を出版するにあたって、なによりも忠実さと真実性を重視したと言う。
そして、個々の表現については修正した部分もあるが、基本的には何一つ加えず、美化することもせず、聞いた通りを再現しようとしたと主張している。

しかし、1812年の第一版から1857年の第七版までを比べてみると、彼らの主張とは別の事実が見えてくる。
私たちが一般的に手に取るのは、最後に出版された第七版であり、それだけ見たのではわからないが、前の版と比べると、かなり訂正が加えられていることがわかる。
その比較を通して見てくるのは、「話される物語」から「読まれる物語」へと変わっていく過程である。

ここでは、「かえるの王様」の最初の部分を取り上げ、グリム兄弟がクレメンス・ブレンターノに渡した原稿(1810年)、1812年の初稿、1819年の第二版、そして、最後に出た第七版と四つの版を比較検討してみよう。

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グリム童話の楽しさ 1/3

グリム童話は、ペロー童話と同じように、民間に伝わる民話を語り直したものであるが、グリムの知名度の方が圧倒的に上である。
実際、グリムという名前は今でもよく聞かれ、児童用図書や絵本等の形で、日本でも広く親しまれている。
時には、グリム童話の残酷さがテーマとなり、子ども用の本とのイメージのギャップに焦点が当てられたりすることもある。

グリム童話のグリムとは、ドイツの文献学や古代史研究の基礎を築いたといわれるヤーコプ・グリム(1785-1863)とヴィルヘルム・グリム(1786-1859)という二人の兄弟によって編集された昔話(メルヒェン)集を指す。

1812年の初版の第一巻(86編)が、1815年に第二巻(70編)が出版された。それ以降も兄弟は昔話に手を加え、1819年に第2版を出版し、1857年の第7版まで改訂版を出し続けた。

ここでは、児童文学の誕生と発展という視点から、現在でも多くの読者を持つグリム童話の楽しさについて検討していく。

グリム童話の中の読者

17世紀フランスのペロー童話は貴族の娘たちを読者として設定していた。では、19世紀前半に収集・再話されたグリム童話が対象とした読者像はどのようなものだったのだろうか。

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