ドゥニ・ディドロは、唯物論に基づき、肉体(物質)に依存する五感が、知覚だけではなく、知識、感情、道徳観等の根底にあり、全てを決定するものと見なした。
そうした思想家が絵画を見る時には、絵画が伝える視覚表現、つまり、キャンバスの上に描かれた物質の質感が重要な役割を果たす。
そのことを知ると、ディドロがジャン・シメオン・シャルダンの絵画を激賞したことに納得がいく。
日常生活で見慣れた、ごくありふれた物たちが、シャルダンの静物画の中では、本物以上に本物らしく見える。
「シャボン玉遊び」で描かれた透明なシャボン玉は、触れれば破裂してしまいそうである。

ここでは、『1763年のサロン』の中でディドロがシャルダンについて論じた一節を参照しながら、ディドロの絵画観について考察していこう。
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