ネルヴァル 『東方紀行』 ギリシアの島々で古代の神々を夢想する Gérard de Nerval Voyage en Orient キリスト教と古代の神々の争い

ジェラール・ド・ネルヴァルは、1842年の末から1843年の末にかけての約一年間、オリエントの国々に滞在した。
マルセイユから船に乗り、ギリシアを通りエジプトに到着。その後、シリアからトルコへと向かい、イタリアを経て、マルセイユに戻る。地中海をぐるりと回る長い旅。
その体験に基づき、手始めとして、1844年にギリシアの紀行文を発表した。

後に『東方紀行(Voyage en Orient)』に収められることになるその旅行記は、古代文明の中心地ギリシアの相応しく、古代の神々への思いを強く押し出している。
そのことは、フランス革命でキリスト教に対する激しい攻撃が行われた後の社会で、新しい宗教感情を模索する動きと対応していた。

そうした宗教感情のあり方は、日本の読者には縁遠いように思われる。
しかし、複数の神々を信じるのか、神はただ1人と考えるかと問われると、ネルヴァルの試みがすっと腑に落ちてくる。

複数の神と唯一の神

日本の宗教感情の中では、神様が数多くいるのが普通である。
ジブリ・アニメ「千と千尋の神隠し」において、八百万の神がお風呂に入りに来ると言われると、何となく安らぎを感じる。
それに対して、神は唯一絶対の存在で1人だけと言われると、威圧感を感じるし、違和感がある。

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ヴィクトル・ユゴー 「パン」 Victor Hugo « Pan » フランス・ロマン主義の神 1/2

1831年に出版された『秋の葉(Les Feuilles d’automne)』に収められた「パン(Pan)」は、フランス・ロマン主義を主導するヴィクトル・ユゴーが、詩とは何か、詩人とはどのような存在か、高らかに歌い上げた詩。

1820年にラ・マルティーヌが「湖(Le Lac)」によって、ロマン主義の詩の一つの典型を示した。
https://bohemegalante.com/2019/03/18/lamartine-le-lac/
その約10年後、ユゴーが、古代ギリシアの神であるパンの口を通して、ロマン主義の詩を定義した。

パンは、元々は自然を表す神の一人であり、羊飼いと羊の群れの保護者。下半身はヤギ、上半身は人間、頭の上には角を突けた姿で描かれた。

パン(Pan)という言葉はギリシア後で「全て」を意味する。
そのためだと考えられるが、オルペウス教では、原初の卵から生まれた両性存在の神と同一視された。
さらに、ネオ・プラトニスムのメッカであるアレクサンドリアでは、宇宙全ての神と考えられるようになった。

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