ランボー 花について詩人に伝えること Arthur Rimbaud Ce qu’on dit au poète à propos de fleurs 3/5 今はもうユーカリの時代じゃない

Manet, Polichinelle
Théodore de Banville

第3セクションでは、再びテオドール・ド・バンヴィルに対して直接的な呼びかけがあり、彼の芸術がすでに今の芸術ではないと言い放つ。

その際にアルシッド・バヴァが持ち出すのは、バンヴィルを中心とした高踏派詩人たちの詩句の断片とも考えられる。
しかしその一方で、バヴァの詩句は、耳に奇妙に響く音を繋げて遊んでいるだけのようにも聞こえる。

音が意味に先行する詩句。
例えば、Pâtis panique。
子音 [ p ]が反復して弾け、母音[ a ]と[ i ]がそれに続いて繰り返される。
その後で、牧草地が意識され、パニックの意味を考えていくことになる。

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ネルヴァル 『東方紀行』 ギリシアの島々で古代の神々を夢想する Gérard de Nerval Voyage en Orient キリスト教と古代の神々の争い

ジェラール・ド・ネルヴァルは、1842年の末から1843年の末にかけての約一年間、オリエントの国々に滞在した。
マルセイユから船に乗り、ギリシアを通りエジプトに到着。その後、シリアからトルコへと向かい、イタリアを経て、マルセイユに戻る。地中海をぐるりと回る長い旅。
その体験に基づき、手始めとして、1844年にギリシアの紀行文を発表した。

後に『東方紀行(Voyage en Orient)』に収められることになるその旅行記は、古代文明の中心地ギリシアの相応しく、古代の神々への思いを強く押し出している。
そのことは、フランス革命でキリスト教に対する激しい攻撃が行われた後の社会で、新しい宗教感情を模索する動きと対応していた。

そうした宗教感情のあり方は、日本の読者には縁遠いように思われる。
しかし、複数の神々を信じるのか、神はただ1人と考えるかと問われると、ネルヴァルの試みがすっと腑に落ちてくる。

複数の神と唯一の神

日本の宗教感情の中では、神様が数多くいるのが普通である。
ジブリ・アニメ「千と千尋の神隠し」において、八百万の神がお風呂に入りに来ると言われると、何となく安らぎを感じる。
それに対して、神は唯一絶対の存在で1人だけと言われると、威圧感を感じるし、違和感がある。

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ヴィクトル・ユゴー 「パン」 Victor Hugo « Pan » フランス・ロマン主義の神 2/2

Isis allaitant Harpocrate

パン(Pan)の語源となるギリシア語は、「全て」を意味する。
そのパンが、キリスト教の神(Dieu)の行為を最初に明かす。
そこには、キリスト教と古代ギリシアの神々を崇める異教とを融合する諸教混合主義(syncrétisme)を見てとることができる。

C’est Dieu qui remplit tout. Le monde, c’est son temple ;
Œuvre vivante, où tout l’écoute et le contemple.
Tout lui parle et le chante. Il est seul, il est un.
Dans sa création tout est joie et sourire.
L’étoile qui regarde et la fleur qui respire,
Tout est flamme ou parfum !

神が全てを満たした。世界は神の神殿。
生命を持つ作品。そこでは、全てが神の声を聞き、姿を見つめる。
全てが神に話しかけ、神を歌う。神は一人、神は唯一の存在。
神の創造において、全ては喜びであり、微笑み。
見つめる星、息づく花、
全ては炎、あるいは香り!

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ヴィクトル・ユゴー 「パン」 Victor Hugo « Pan » フランス・ロマン主義の神 1/2

1831年に出版された『秋の葉(Les Feuilles d’automne)』に収められた「パン(Pan)」は、フランス・ロマン主義を主導するヴィクトル・ユゴーが、詩とは何か、詩人とはどのような存在か、高らかに歌い上げた詩。

1820年にラ・マルティーヌが「湖(Le Lac)」によって、ロマン主義の詩の一つの典型を示した。
https://bohemegalante.com/2019/03/18/lamartine-le-lac/
その約10年後、ユゴーが、古代ギリシアの神であるパンの口を通して、ロマン主義の詩を定義した。

パンは、元々は自然を表す神の一人であり、羊飼いと羊の群れの保護者。下半身はヤギ、上半身は人間、頭の上には角を突けた姿で描かれた。

パン(Pan)という言葉はギリシア後で「全て」を意味する。
そのためだと考えられるが、オルペウス教では、原初の卵から生まれた両性存在の神と同一視された。
さらに、ネオ・プラトニスムのメッカであるアレクサンドリアでは、宇宙全ての神と考えられるようになった。

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