吉田秀和は、『永遠の故郷 夜』の最初の章で、中原中也の話から始め、ヴェルレーヌへと向かい、ガブリエル・フォーレ作曲の「月の光」について語る。
付録のCDで吉田が選んだのは、ルネ・フレミングの歌。ルネ・フレミングは、アメリカ出身のトップクラスのソプラノで、特に声の美しさで有名だという。
「月の光」の章はこんな風に始まる。
中原中也にフランス語の手ほどきをしてもらったといっても、それは高校一年のせいぜい一年あまりのこと。その終わりころ、私はヴェルレーヌの詩集の全集を買った。フランス製仮綴じ白表紙の本で、全部で五巻か六巻、十巻まではなかったと思う。この全集は、なぜか当時珍しくないものでいろんな店にあり、私は神保町の古本屋で金五円で買ったのだった。
中原の詩を知れば、誰だってヴェルレーヌが読みたくなって当たり前。両者の血縁関係は深くて濃厚である。また彼は酔うとよく詩を朗読したが、そういう時はヴェルレーヌの詩の一節であることがよくあり、« Colloque sentimental(感傷的対話)»など終始出てきて、これを読む彼の身振りは今でも思い出せる。ただし、私はこの詩はあんまり好きではなかった。
逆に好きだった一つが« Claire de lune(月の光)»