ボードレール ドラクロワ 絵画論 1846年のサロン

「1846年のサロン」の中で、ボードレールはドラクロワについて論じながら、彼自身の絵画論の全体像を提示した。

その絵画論は、ドラクロワの絵画を理解するために有益であるだけではなく、ボードレールの詩を理解する上でも重要な指針が含まれている。

1)芸術についての考え方:インスピレーションか技術か
2)作品の構想と実現:自然(対象)との関係
3)作品の効果

ボードレールは、ドラクロワの絵画に基づきながら、以上の3点について論じていく。

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ロンサール 「あなたが年老い、夕べ、燭台の横で」 Pierre de Ronsard « Quand vous serez bien vieille, au soir, à la chandelle » 

Pierre de Ronsard

ピエール・ド・ロンサールが1587年に発表した『エレーヌのためのソネット集(Sonnets pour Hélène)』には、とても皮肉な恋愛詩が収められている。
それが、「あなたが年老い、夕べ、燭台の横で」。

このソネットのベースに流れているのは、「今を享受すること」を主張する思想。だからこそ、詩人は、自分の愛に応えて欲しいと、愛する人に願う。

ロンサールは、ソネットの二つのカトラン(四行詩)と最初のテルセ(三行詩)の中で、動詞の時制が未来形に置かれ、「あなたが年老いた時」のことを描き出す。その時には、あなたの美は失われ、暗い夕べの中で過去を懐かしみ、後悔するだろう、と。

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マラルメ 「エロディアード 舞台」 Mallarmé « Hérodiade Scène » 言語と自己の美的探求 4/7

Berthe Morisot, Devant le miroir

乳母とエロディアードの最初の対話によって、見ることが自己の分裂を生みだし、「自己が見る自己」の映像が詩のテーマとして設定された。

エロディアードは、ライオンのたてがみのような髪を整えるために、乳母に手を貸すように命じる。
そこで、乳母は、髪に振りかける香水について、一つの提案をする。

         N.

Sinon la myrrhe gaie en ses bouteilles closes,
De l’essence ravie aux vieillesses de roses,
Voulez-vous, mon enfant, essayer la vertu
Funèbre?

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マラルメ 海の微風 Mallarmé « Brise marine » 無(Rien)の歌

Paul Cezanne, Le golfe de Marseille, vue de l’Estaque

「海の微風(Brise marine)」は、その題名だけで、すでにとても美しい。
4音節が、2(Bri/se)/2(Marin(e))に別れ、それぞれに [ ri ]の音が入り、バランスが取れていている。

第一詩句は、« La chair est triste, hélas ! et j’ai lu tous les livres. »
12音節が6音節・6音節と真ん中で句切れ、その中で、[ l ]と[ r ]、そして母音[ e ]が何度も反復され、心地よい音の流れが出来上がる。
そこに、[ t ]と[ i ]の音が、triste / tous … livresと反復され、海辺に爽やかな風が吹き寄せる効果を生み出している。

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詩は世界を美しくする  ネルヴァル ボードレール 村上春樹 ビリー・ホリデー

詩は世界を美しくする。

芸術家、詩人は、自分の世界観(ボードレールの言葉では「気質」tempérament)に従って、作品を生み出す。
私たちは、その作品に触れることで、芸術家の世界観に触れ、感性を磨いたり、彼等のものの見方、感じ方を身につけることができる。

詩においても、そのことを具体的に体験することができる。

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ランボー 「永遠」 Rimbaud « L’Éternité »

誰もが望みながら、どうやっても到達できない永遠。ランボーはその永遠を容易に見つけてしまう。
彼はいとも簡単に言う。「永遠がまた見つかった!」と。

1872年、彼はヴェルレーヌと一緒にあちこち放浪していた。
そして、腹が減ったとか(「飢餓のコメディ」)、我慢しよう(「忍耐祭り」)といった気持ちを、歌うようにして詩にした。

「永遠」もそうした詩の一つ。
その後、『地獄の季節』(1873)の中で、「言葉の錬金術」によって生み出された詩として歌われることになる。

Elle est retrouvée !
Quoi ? l’éternité.
C’est la mer mêlée
   Au soleil.

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ランボー 「酔いどれ船」 Rimbaud « Le Bateau ivre » 1/7 自由への旅立ち

ランボーの「酔いどれ船」は傑作と言われ、パリのサン・シュルピス教会のすぐ横にある壁には、100行の詩句全部が書かれている。

しかし、意気込んで読んでみても、難しくて理解できないところが多い。
この詩のどこに、多くの読者を惹きつける魅力があるのだろう。

今から、4行詩が25節続く詩の大海原に、船を漕ぎだしてみよう。

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マラルメ 「蒼穹」 Mallarmé « L’Azur » 初期マラルメの詩法

マラルメの詩は難しい。それは日本人の読者にとってだけではなく、フランス人にとっても同じこと。なぜこんなに「難解(obscur)」なのだろう。

日本では本来の難解さに、別の問題が加わった。
マラルメ紹介の初期、東大教授だった鈴木信太郎が中心的な役割を果たした。彼の訳文は難しい漢字のオンパレードで、普通の読者には理解不可能なものだった。
その上、マラルメの詩が、言語の根底を問い直す哲学的な側面を持っているため、逆に読者は「難解さ」に安住する傾向が出来上がってしまった。わからなくて当たり前という風潮。分からないものをありがたがるインテリの読者。。。

その一方で、音楽性は顧みられず、マラルメの詩を声に出して読むことは冒瀆と考えられる時代があったという。詩の音楽性が重要であることは、マラルメ自身が強く主張している。音声軽視は、日本のマラルメ受容にとって大変に不幸なことだった。

初期のマラルメが自らの詩法を展開した「蒼穹(L’Azur)」を読み、彼が詩をどのように捉えていたのか見ていくことにしよう。

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ヴェルレーヌ「詩法」 Verlaine « Art poétique » 何よりも先に音楽を La musique avant toute chose

詩は大きく分けると、歴史や神話を語る叙事詩と、個人の思いや感情を吐露する抒情詩に分類される。
19世紀のフランスでは、抒情詩が詩の代表と考えられるようになり、それに伴い音楽性がそれまで以上に重視されるようになった。
とりわけ、19世紀後半の詩人達、ボードレール、ヴェルレーヌ、ランボー、マラルメたちの詩句は音楽的である。

ポール・ヴェルレーヌの「詩法」« Art poétique »は、「何よりも先に、音楽を」という詩句で始まり、抒情詩=音楽の流れを見事に表現している。

実際、ヴェルレーヌ自身大変に音楽的な詩人であり、彼の詩は数多くの作曲家によって曲を付けられ、現在でもしばしば歌われている。
https://bohemegalante.com/2019/04/13/verlaine-musique-philippe-jaroussky/

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ランボー「母音」 Rimbaud, « Voyelles » ボードレールを超えて  Au-delà de Baudelaire

「母音」« Voyelles»はランボーの詩の中でも傑作とされ、多くの読者を引きつけてきた。しかし、何度読んでも難しい。なぜこんなに難解な詩が高く評価されるのだろうか。

その魅力を知るためには、ランボーが目指したものを知り、一つ一つの詩句をじっくりと読んでみるしかない。

その試みに挑んだら、ソネを構成する14行の詩句の解説に、12,000字程度費やすことになってしまった。長い長い解説。。。

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