「見る」ことはごく普通のことでありながら、実はとても難しい。実際には多様なものを見ているのだが、見ているものが何か分かると、そこで終わってしまうことが多い。
次の3枚の絵画は、ほぼ同じ時期に、三人の画家によって描かれた。
(1)と(2)では、同じ時に同じ場所でほぼ同じ対象(母子など)が描かれている。(3)のモデルも同じ女性。



プロの画家がもしモデルを忠実に再現しようとしたのであれば、3枚にそれほど違いはないはずである。しかし、私たちの目は違いをはっきりと捉える。
そのことは、絵画の目的が、写真と違い、ありのままの姿を再現することではないことを示している。「本物そっくり!」と絵の前で驚くことは、誉め言葉にならない。
絵画1枚1枚には特有の表現があり、表現そのものを「見る」ことが、絵画を見ることである。
3枚の絵は同じ表現様式を共有している画家たちによって描かれているために、かなり似ているのだが、しかし三人の画家にはそれぞれのタッチがあり、どこか違っている。
「何が」描かれているか以上に、「どのように」描かれているかを「見る」ことが、私たちの目のレッスンになる。