
『第二の書 パンタグリュエル物語』(1532)には、ガルガンチュア王がパリにいる息子パンタグリュエルに送った手紙(第8章)が挿入され、フランス・ルネサンス期の教育論を代表するものと考えられている。
知識が人格形成につながる人文主義的な思想に基づく教育によって、父は息子に理想の人間像を伝える。
面白いことに、その後すぐ、パンタグリュエルは、アンチ理想像ともいえるパニュルジュに出会い、一生の友とする。
パニュルジュという名前はギリシア語で「どんなことでもする、意地悪」を意味し、トリックスターのような存在を暗示している。

『第一の書 ガルガンチュア物語』(1534)になると、パニュルジュの役割はある意味では修道士ジャンに引き継がれ、物語の最後、ユートピアである「テレームの僧院」が彼に与えられる。

唯一の規則が「欲することを行え。」という僧院は、人文主義を代表するエラスムスや『ユートピア』の著者トマス・モーアの理想ともつながる。
そうした空間がジャンという破天荒な修道士に与えられることは、ラブレーにおいて、滑稽さや遊びの精神も理想郷に含まれることを示している。
そこでは、「自由」が全ての根本に置かれる。