フランソワ・ラブレー ルネサンス的理想の人間像を求めて 1/3

15世紀半ば、ジャンヌ・ダルクの出現によって百年戦争が終わりを迎えた後、16世紀に至り、フランスはルネサンスの時期を迎える。
フランソワ・ラブレーは、まさにその時期の時代精神を体現した作家である。

彼の代表作『パンタグリュエル物語』と『ガルガンチュア物語』は、巨人の王様親子を中心にした荒唐無稽な物語が表の顔。しかし、内部には人文主義的思想を包み込んでいる。
そのために、私たち読者に、人間のあり方、教育、理想の社会、自由など、様々な問題について考えるきっかけを与えてくれる。

実際、ラブレーはフランス文学史の中でも大作家として認められ、500年近く経った現在でも数多くの読者を獲得している。

日本では、大江健三郎が師匠と仰ぐ渡辺一夫が、16世紀の思想や文学について行った優れた研究を土台にして、『パンタグリュエルとガルガンチュア物語』全五巻の翻訳を出版した(1941-1975)。
ただし、ラブレーの多様で難解な言語をそのまま反映した渡辺の翻訳は、素晴らしい力業であるが、現代の日本人には理解が難しい。
幸い、宮下志朗による新訳がちくま文庫から出版されているので、最初は宮下訳から読む方がラブレーの世界に入りやすい。

続きを読む

フランソワ・ラブレー François Rabelais 『パンタグルエル物語』と『ガルガンチュア物語』教育論と理想世界

フランソワ・ラブレーは16世紀前半を代表する作家というよりも、フランス文学全体を通して最も重要な作家の一人。
残念ながら、16世紀のフランス語は現代のフランス語とかなり違っていて、容易に読むことができない。従って、ラブレーのフランス語のテクストをそのまま読み、解読してしていくことは難しい。

ここでは、ラブレーの教育論と理想世界について、核になる言葉を取り上げて、概要を見ていくことにする。
ポイントになるのは、二つの言葉。
« science sans conscience n’est que ruine de l’âme. »
« Fais ce que voudras.»

続きを読む

ラ・フォンテーヌ 「セミとアリ」 La Cigale et la Fourmi 『寓話集』への招待 Invitation aux Fables de la Fontaine

17世紀後半の作家ラ・フォンテーヌは、イソップの寓話をルイ14世が支配する宮廷社会の時代精神に合わせて書き直した。

1668年に出版された彼の『寓話集』は、六つの書に分けられ、それぞれの巻の最初には寓話というジャンルを説明する話が配置されている。
その中でも、「セミとアリ」は、「第一の書」の冒頭に置かれ、『寓話集』全体の扉としての役割を果たしている。

「セミとアリ」は、日本では「アリとキリギリス」という題名で知られている。
夏の間、キリギリスは歌を歌い、働かない。冬になり、夏働いていたアリに食べ物を分けてくれるように頼むが、もらうことができず死んでしまう。
このような話を通して、勤勉に働くことや将来を見通すことの大切さ等が、教訓として読み取られる。

ラ・フォンテーヌは、その物語の骨格に基づきながら、自分風に変えていく。

続きを読む