日本的な感性は自然の移り変わりに敏感であり、春は桜を楽しみ、秋は紅葉に感嘆する。その際、桜や紅葉がいつまでも咲き続けることを望むのではなく、それらが束の間の美であることに強く心を動かされる。
ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ

『古今和歌集』に収録された紀貫之のこの和歌は、桜の花と人の心の対応、過ぎ去る時間に対する意識、和歌全体を貫くしみじみとした抒情性など、日本的な美意識の一つの型を見事に表現している。
まず最初に、平安時代までに成立したと考えられるこうした美意識の基底には、どのような自然観があるのか考えてみよう。
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