小林秀雄 「実朝」 知る楽しみ 2/2

文学部の大学院生だった頃、「文学の研究をして何の意味があるのだろうか?」という疑問が湧き、「研究を通して対象とする作品の面白さや価値を人に伝えること」という言葉を一つの答えとしたことがあった。

最近、それを思い出したのは、二つのきっかけがある。
一つは、ドガの「14歳の小さな踊り子」に関するユイスマンスの言葉によって、その作品の美を感じたこと。 ドガ 「14歳の小さな踊り子」 知る楽しみ 1/2

もう一つが、小林秀雄の解説で、源実朝の一つの和歌の詠み方を教えられたことだった。

箱根路を わが越えくれば 伊豆の海や 沖の小島に 波の寄る見ゆ

この和歌を前にして、私には、海に浮かぶ小さな島に波が打ち寄せる風景しか見えてこない。それ以上のことはまったくわからない。

そんな私に対して、小林秀雄はこう囁く。

大きく開けた伊豆の海があり、その中に遥かに小さな島が見え、またその中にさらに小さく白い波が寄せ、またその先に自分の心の形が見えて来るという風に歌は動いている。(小林秀雄「実朝」)

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