おもひでぽろぽろ Souvenirs goutte à goutte 思い出と向き合う

高畑勲が監督した「おもひでぽろぽろ」は、アニメ作品にありがちなファンタジー的な要素がなく、特別な主人公の特別な冒険物語とは正反対の作品。

主人公タエ子は27歳。独身で、東京の会社に勤めている。
物語は、田舎に憧れている彼女が10日間の休暇を取り、農業体験をするために山形の親戚の家に行くところから始まる。
田舎に行くと決めた時から、突然、小学校5年生の思い出がポロポロとこぼれ落ちるように蘇り、彼女の心を一杯にする。

山形では、親戚の家族に混ざって紅花を摘む作業を手伝ったり、有機農業に取り組むトシオに有機農業の手ほどきを受けたり、蔵王にドライブにいったりする。東京に戻る前の日、親戚のおばあさんからトシオの嫁になってくれと突然言われ困惑する。しかし、結局、そのまま東京に戻る電車に乗る。

しかし、電車の中で突然考えを変え、次の駅で電車を降る。そして、トシオが迎えに来た車に乗り、親戚の家に戻る道を辿る。

特別なことが何もなく、ただ一人の女性が田舎で農業体験をし、一人の男性と仲よくなるという物語。

続きを読む

ボードレールの美学 想像力と現前性

ボードレールは、伝統的な美(ミロのビーナス、モナリザ等)を乗り越え、新しい美について、次のような言葉で提案した。

「美は常に奇妙なもの。(Le Beau est toujours bizarre.)」

「美は常に人を驚かせるもの(Le Beau est toujours étonnant.)」

奇妙なものは人を驚かせる。しかし、そうしたものは美の基準からは外れるし、しばしば醜いもの、悪いものと見なされる。
それにもかかわらず、ボードレールは、人を驚かせるためには、今まできれいだと思われていなかったもの、つまり、醜いと思われるものを美の対象とした。

では、どのようにして、醜いものを、美しいものに変えるのか? 

続きを読む

ボードレール 「旅」 Baudelaire « Le Voyage » 新しい詩への旅立ち 3/7

第3部には、驚くべき旅行者と私たちという二つの系列の旅行者が現れる。その区別は、すでに旅をした人々と、これから旅を志す人間(私たち)の違いである。

III

Etonnants voyageurs ! quelles nobles histoires
Nous lisons dans vos yeux profonds comme les mers !
Montrez-nous les écrins de vos riches mémoires,
Ces bijoux merveilleux, faits d’astres et d’éthers.

驚くべき旅人たちよ! どんなに高貴な物語を、
私たちは君たちの目の中に読み取ることだろう。海のように深い目の中に!
見せてくれ、君たちの豊かな記憶の宝石箱を、
星と天空のエーテルでできた、素晴らしい宝石を。

続きを読む

ヴェルレーヌ 「秋の歌」 Verlaine « Chanson d’automne » 物憂い悲しみ

日本におけるヴェルレーヌのイメージは、上田敏による「落葉」の翻訳によって決定付けられているといってもいいだろう。その翻訳は、上田敏作の詩と言っていいほどの出来栄えを示している。

秋の日の/ヰ゛オロンの/ためいきの/身にしみて/ひたぶるに/うら悲し。
鐘のおとに/胸ふたぎ/色かへて/涙ぐむ/過ぎし日の/おもひでや。
げにわれは/うらぶれて/ここかしこ/さだめなく/とび散らふ/落葉かな。

この翻訳の素晴らしさが、日本における「秋の歌」の人気の秘密であることは間違いない。しかしそれと同時に、ヴェルレーヌの詩が、『古今和歌集』の詠人知らずの和歌のように、「もののあわれ」を感じさせることも、人気の理由の一つではないだろうか。

秋風に  あへず散りぬる  もみぢ葉の  ゆくへさだめぬ  我ぞかなしき 

フランス語を少しでもかじったことがあると、これほど素晴らしい詩がフランス語ではどうなっているのだろうと興味を持つことだろう。
もちろん、ヴェルレーヌの詩も素晴らしい。

続きを読む

These foolish things (remind me of you) 思い出のたね 

These foolish things (remaind me fo yo) は、1935年にロンドンで上演されたミュージカル”Spread It Abroad”の挿入歌。
他の人から見たらどうでもいいものでも、自分にとっては大切な思い出、ということはよくある。
題名にfoolishとあるのがとても効いている。だいたい自分のこだわりなんて、foolishなものだ。

エラ・フィッツジェラルドがオスカー・ピーターソンのピアノをバックに歌うものは、しっとりしていて、一人で静かに物思いに浸る感じが心地いい。

続きを読む