フォンテーヌブロー派の絵画 École de Fontainebleau 16世紀フランス 繊細で優美な絵画の始まり その1

Jean Cousin, Eva prima Pandora

フォンテーヌブロー派の絵画は、その名前の通り、フォンテーヌブロー城を中心に展開した絵画の流派。

イタリア・ルネサンス芸術の影響の下、中世のキリスト教文化と古代ギリシア・ローマの異教文化との融合を図り、繊細で優美、官能的な美を生み出してた。

ジャン・クーザンの「エヴァ、プリマ、パンドラ」は、キリスト教の楽園において原罪を犯したエヴァと、ギリシア神話の中で人類に悪をもたらしたパンドラを、一人の女性、しかもヌードの女性像によって形象化している。
その意味で、まさに、異教とキリスト教の融合と言っていい。

この絵画によって代表されるフォンテーヌブロー派の絵画がどのようなものか、これから見ていこう。

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モーリス・セーブ 見ないでいるほど、憎くくなる Maurice Scève « Moins je la vois, certes plus je la hais » 愛は最も崇高な美徳

モーリス・セーブは、16世紀フランスを代表する詩人。
1544年に出版された、『デリー 最も崇高な美徳の対象(Délie, objet de la plus haute vertu)』は、Délie(デリー)と呼ばれる女性(実際の名前は、Pernette du Guillet)への愛を歌った詩集。

ただし、Délieは、L’Idée(イデア)のアナグラムでもあり、イタリアの思想家マルシリオ・フィチーノを経由したネオ・プラトニスムや神秘主義的な思想が、ペトラルカ的な恋愛詩を通して表現されているとも言われる。

Diane chasseresse
Gustave Moreau, Une effroyable Hécate

Délieは、ギリシア神話の女神ダイアナ(Diane)とヘカテー(Hécate)の別名でもある。
ダイアナは、狩りと月の女神で、男を寄せ付けない。
ヘカテ—は、夜と死の女神であり、冷酷で残忍な女性性を体現する。
従って、デリーを愛することは、苦悩や苦痛の源になる。

しかし、死に匹敵する苦しみを蒙りながら、それを超越することで、愛は甘美なもの(délice)となる。
そこに最も崇高な美徳(la plus haute vertu)がある。

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ルイーズ・ラベ 「私は生き、私は死ぬ」  Louise Labé « Je vis, je meurs » 愛(アムール)とは何か?

Louise Labé

ルイーズ・ラベは、16世紀半ばにリヨンで活動し、ルネサンス期のフランスを代表する詩人の一人。

彼女の代表的な詩「私は生き、私は死ぬ(Je vis, je meurs)」は、イタリアの詩人ペトラルカに由来するソネットの詩型を用い、愛(Amour)とは何かを歌っている。

2つの四行詩(カトラン)では、私(je)を主語にして、私がある矛盾した感情や感覚に捉えられることが語られる。

Angelo Bronzino, Allégorie du triomphe de Vénus

3行詩(テルセ)に移ると、私を捉えていたものが愛(Amour)であることが最初に示される。
そこでは、主体は愛になり、私は愛という行為が働きかける対象(me)であることが示される。

そのようにして、14行のソネット全体を通して、愛とは何かという謎解きが行われていく。

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ジョアシャン・デュ・ベレー 「一生が一日よりも短いならば」 Joachim du Bellay « Si notre vie est moins qu’une journée » プラトニック・ラブの神話

ジョアシャン・デュ・ベレー(Joachim du Bellay)は、プレイアッド派の中心的なメンバーの一人。
イタリアの詩人ペトラルカが用いたソネット形式と、プラトン哲学に基づく愛の概念をフランスに導入することに、大きな役割を果たした。

ソネット(sonnet)は、2つの四行詩(Quatrain)と2つの三行詩(Tercet)の、14行からなる詩の形式。
韻に関しても、最初の8行はabba abba、次の6行は、cde cde、cdc cdc、cdc dcdなど、基本的な形が決められていた。

ペトラルカは、ソネット形式を用いて、ラウラと呼ばれる女性に捧げた恋愛抒情詩を書き、イタリアだけではなく、16世紀フランスの詩人たちに圧倒的な影響を与えた。

恋愛を歌うことは、人間的な自然な感情の表現であると思われるかもしれない。しかし、古代の文藝を再評価したルネサンスの時代には、哲学者プラトンから出発した愛の神話 — プラトニック・ラブ — を歌うことでもあった。

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