ロココ絵画の楽しみ ルイ15世とポンパドゥール夫人の時代の美意識

フランスの美といえば、日本では一般的に、ロココ的な美を思い浮かべるのではないだろうか。
繊細で、色鮮やか。心を浮き立たせる自由さと軽快さがあり、上品で、洗練されている。
そうした美意識は、建築、彫刻、絵画といった芸術品だけではなく、室内装飾、家具や食器等の工芸品にまで及んでいる。

ヴェルサイユ宮殿の女王の間、プティ・トリアノン宮の内部、パリ北方に位置するシャンティ城の王子の部屋などを見ると、ロココ的美がどのようなものか、一目で感じ取ることが出来る。

絵画で言えば、主流となるのは、ヴァトー、ブーシェ、フラゴナール。
三人の画家の絵画にはどれも穏やかな官能性が感じられるが、猥雑さの欠片もなく、現実を離れ甘美な夢の世界へと繋がる幸福感に溢れている。

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ドゥニ・ディドロ 盲人に関する書簡 Denis Diderot Lettres sur les aveugles à l’usage de ceux qui voient 唯物論的世界観

Van loo, Denis Diderot

18世紀の思想を代表する『百科全書』の編集において中心的な役割を果たしたドゥニ・ディドロ(1713−1784)は、物質主義的で科学主義的精神が、伝統的な権威に基づく絶対的な価値観を覆し、個としての人間の自由に価値を置く思考へと続くことを示した。

ディドロは唯物論者と言われる。
唯物論とは、世界の全ての現象を物質的な要素が相互に関連によって解明できるとする思想であり、精神現象の根底にも物質があり、物質が精神に先立つと考える立場。
一つの例を挙げれば、肉体(物質)に依存する五感が、知覚だけではなく、知識、感情、道徳観等の根底にあり、全てを決定するものと見なす。

1749年に出版された『盲人に関する書簡、目の見える人々用(Lettres sur les aveugles à l’usage de ceux qui voient)』では、唯物論的な視点に立ち、視覚を持たない人間の世界観が、視覚を備えた人間の世界観とは違うことが、書簡の形で示されている。
その中で、ディドロは、感覚が精神性に先立ち、感覚の違いにより道徳観も世界観も違うことを具体的に示した。

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