「8.シャンティイ」は、次のような結末で終わる。
「パリに住むところはないのだから、なぜこのまま、この放浪する家(馬車)の中に留まらないのだろうか? しかし、今はもう、「緑の放浪生活」を送るような気まぐれに従う時ではない。私は、もてなしてくれた人たちに別れを告げた。雨が止んでいたのだった。」
このように、第1章の開始を告げた「家探しのテーマ」が再び取り上げられ、あえて未解決のままにされることで、「散歩と思い出」を通して語られてきた様々な「散歩」と、その過程で甦ってくる「思い出」には終わりがない、ということが示される。
私たちがふと夢想するとき、とりとめがなく、自分が何かを考えるのではなく、思いの方が自然に浮かんでくる。ネルヴァルも次々に湧き上がってくる連想を、とりとめもなく連ねていくような印象を与える。
読者は、彼の夢想についていくしかない。しかし、そうしているうちに、ネルヴァルの言葉たちが生み出す詩情にいつの間にか捕らえられている自分に気付く。
「8.シャンティイ」

サン・ルーの二つの塔が見えてくる。サン・ルーは丘の上にある村で、オワーズ川に沿った場所からは、鉄道によって切り離されている。砂岩でできた堂々とした姿の高い丘に沿い、シャンティイの方に上っていく。森の端まで来る。ノネット川が、町の一番端にある家々に沿った草原で輝いている。——— ノネット川! 昔ザリガニを釣ったことのある、なんとも愛しい小川の一つ。——— 森の反対側には、ノネット川の姉妹にあたるテーヴ川が流れている。そこで私は溺れそうになったことがある。可愛いセレニーの前で臆病者に見られたくなかったからだった。
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