
エミール・ゾラ(1840-1902)は19世紀後半に自然主義を推進した小説家であり、エドゥアール・マネの絵画を1860年代に高く評価した数少ない美術批評家でもあった。
ゾラの思想の根本にあるのは実証主義的、科学主義的な精神であり、観察と実験に基づく生理学の理論を小説に応用した「実験小説論」を構想し、「遺伝」と「環境」の複雑な関係を基礎とした数多くの小説を執筆した。

それと同時に、個人の「気質」を芸術創造の中心的な要素とし、「芸術作品とは、一つの気質を通して見られた自然の一片である。」と主張した。
ゾラは「自然」を「生命」現象として見なし、そこに「真実」を見る。
そのために、「精神的な事象の研究に、物理的事象の研究において採用した純粋な観察と正確な分析を導入する」ことを試みたのだった。
そうした精神性を持つゾラが、19世紀後半は「進化」の時代であるという認識の下、19世紀前半のロマン主義は淘汰されるべきものと見なし、新しい時代の芸術観として自然主義を提示したのだった。
その名称は、写実主義(リアリズム)と差異化させるためであり、彼は自然主義の旗手として、時代を導くリーダーとして先頭に立とうとした。

1890年代になると、軍部の陰謀によってスパイ容疑をかけられたユダヤ人のアルフレド・ドレフュス大尉を弁護するため、1898年に「私は告発する!」と題された大統領宛の公開状を新聞に発表し、軍部の不正を強く非難した。
こうした社会活動の実践も、自然主義のリーダーとしての活動と軌を一にしている。