ランボー 花について詩人に伝えること Arthur Rimbaud Ce qu’on dit au poète à propos de fleurs 5/5 地獄(鉄)の世紀の詩

第5セクションは第4セクションに続き、新しい詩を推進する言葉がさらに重ねられる。
そうした中で、2つのセクションの違いは時代性の有無にある。

前のセクションでは語られた内容は、非時間的、非空間的で、最後のアフフェニード合金だけがランボーの時代を思わせるものだった。
今度のセクションになると、具体的な固有名詞が出てきたり、現代(=19世紀後半の現代)を思わせる記述が多く使われる。
そして、アルシッド・バヴァは自分たちの現代を、「地獄(鉄)の世紀」と呼ぶ。

続きを読む

ランボー 花について詩人に伝えること Arthur Rimbaud Ce qu’on dit au poète à propos de fleurs 4/5 合金ナイフを腐食させる煮込み料理を出せ

第4セクションからは、とうとう、新しい詩とはどういうものであるべきか、詩人に伝えることになる。
その際、アルシッド・バヴァは、「言え(dis)」「クソをかぶせろ(incague)」「見つけろ(trouve)」「料理を出せ(sers)」と続けざまに命令を下す。

他方で、何を言えと言うのか、何を見つけろと言うのか、命令の内容は定かではない。言葉が意味をなさない!と思われることが多くある。

それこそが、アルシッド・バヴァの狙いだ。
彼は新しい詩の世界を目指し、現実の再現をベースにした言語世界の破壊を目指している。
詩の中で生成する世界は、現実の素材が使われてはいるが、しかし現実から自立した新しい世界。

読者に求められるのは、すでに知っている言葉の慣用的な意味を探し、それが見つからないと頭を抱えるのではなく、未知の世界を経験すること。

未知の世界の解釈は読者に委ねられている。理解不能と匙を投げる必要はない。
アルシッド・バヴァが息せき切って続ける命令のエネルギッシュな勢いを感じながら、音の流れについていくだけでいい。

続きを読む

ランボー 花について詩人に伝えること Arthur Rimbaud Ce qu’on dit au poète à propos de fleurs 3/5 今はもうユーカリの時代じゃない

Manet, Polichinelle
Théodore de Banville

第3セクションでは、再びテオドール・ド・バンヴィルに対して直接的な呼びかけがあり、彼の芸術がすでに今の芸術ではないと言い放つ。

その際にアルシッド・バヴァが持ち出すのは、バンヴィルを中心とした高踏派詩人たちの詩句の断片とも考えられる。
しかしその一方で、バヴァの詩句は、耳に奇妙に響く音を繋げて遊んでいるだけのようにも聞こえる。

音が意味に先行する詩句。
例えば、Pâtis panique。
子音 [ p ]が反復して弾け、母音[ a ]と[ i ]がそれに続いて繰り返される。
その後で、牧草地が意識され、パニックの意味を考えていくことになる。

続きを読む

ランボー 花について詩人に伝えること Arthur Rimbaud Ce qu’on dit au poète à propos de fleurs 2/5 写真的詩の上にクソを垂れる

「花について詩人に伝えること」の第2セクションを構成する九つの4行詩では、前のセクションに続けて、ロマン主義詩人たちの末裔にあたる詩人たちが批判の対象になる。
その中には、高踏派詩人の一人になりたいと望んだ一年前のランボー少年自身も含まれると考えてもいい。

実際、アルシッド・バヴァの詩句には、以前にランボー少年が綴っていた青春の息吹に満ちた若々しい詩句はなく、ほどんど意味不明と言わざるを得ない内容になっている。
そうした詩句の中で、これまでの詩の本質を端的に表す言葉が取り上げられる。
その言葉とは、「写真家(photographe)」。
第2セクションを通して、その意味と意義を解明していきたい。

続きを読む

ランボー 花について詩人に伝えること Arthur Rimbaud Ce qu’on dit au poète à propos de fleurs 1/5 ロマン主義を浣腸する

「花について詩人に伝えること(Ce qu’on dit au poète à propos de fleurs)」は、ランボーが新しい時代の詩はどのようにあるべきかを語った、詩についての詩。

第1詩節は、ロマン主義を代表するラマルティーヌの「湖(Le Lac)」のパロディー。
しかも、ランボーらしく、読者を憤慨させるか、あるいは大喜びさせるような仕掛けが施されている。

Ainsi, toujours, vers l’azur noir
Où tremble la mer des topazes,
Fonctionneront dans ton soir
Les Lys, ces clystères d’extases !

意味を考える前に、「湖」の冒頭を思い出しておこう。

Ainsi, toujours poussés vers de nouveaux rivages,
Dans la nuit éternelle emportés sans retour,
Ne pourrons-nous jamais sur l’océan des âges
Jeter l’ancre un seul jour ?

こんな風に、いつでも、新たな岸辺に押し流され、
永遠の夜の中に運ばれ、戻ることができない。
私たちは、決して、年月という大海に、
錨を降ろすことはできないのか。たった一日でも。
https://bohemegalante.com/2019/03/18/lamartine-le-lac/

「こんな風に、いつでも(Ainsi, toujours)」と始まれば、当時の読者であれば誰もがラマルティーヌのパロディーであると分かったはずである。
ランボーはその後もロマン主義的な語彙を重ねるが、最後は音による言葉遊びをし、とんでもないイメージで詩節を終える。

こんな風に、いつでも、黒い紺碧の方へ、
そこではトパーズの海が震えている。
その方向に向かい、夜の間に機能するのは、
「百合の花」。恍惚感を吐き出させる浣腸。

続きを読む