ボードレール 「香水瓶」 Baudelaire « Le Flacon » 香りと思い出 Parfum et souvenir

『悪の花(Fleurs du mal )』が1857年に出版され、風紀を乱すという罪状で裁判にかけられている時期、ボードレールは、それまでは明確な形で愛を告白してこなかったアポロニー・サバティエ夫人、通称「女性大統領(La présidente)」に手紙を書き、9編の詩が彼女に向けられたものであることを告白した。

「香水瓶(Le Flacon)」はその中の一編であり、共感覚を歌った「夕べの諧調」(参照:ボードレール 夕べの諧調 )に続き、香りと思い出が連動する様子が歌われている。

続きを読む

ボードレール 「髪」  Baudelaire « La Chevelure »  官能性から生の流れへ 

愛する女性の髪に顔を埋め、恍惚とした愛に浸る。「髪(La Chevelure)」と題された韻文詩で、ボードレールはそんな官能的な愛を歌いながら、いつしか読者を「思い出というワイン(le vin du souvenir)」で酔わせていく。そして、その過程が、官能の喜びから精神の恍惚への旅として描かれる。

「髪」は、7つの詩節から構成される。
それぞれの詩節は、12音節の詩句が5行から成り、全ての詩節の韻はABAAB。
12音節の切れ目(césure)は6/6と中央に置かれることが多く、詩全体が非常に整った印象を与える。

La Chevelure

Ô toison, moutonnant jusque sur l’encolure !
Ô boucles ! Ô parfum chargé de nonchaloir !
Extase ! Pour peupler ce soir l’alcôve obscure
Des souvenirs dormant dans cette chevelure,
Je la veux agiter dans l’air comme un mouchoir

「髪」

おお、首の上まで波打つ羊毛のような髪!
おお、髪の輪! おお、物憂さの籠もった香り!
恍惚! 今宵、暗い寝室を、
この髪の中で眠る思い出によって満たすため、
この髪を空中で揺り動かしたい、ハンカチを振らすように!

続きを読む

マラルメ 現れ Mallarmé Apparition 悲しみの香りから香り豊かな星々の白いブーケへ

ステファン・マラルメは、フランス語の詩句の可能性を極限にまで広げた詩人と言われている。
「現れ(Apparition)」は1863年頃に書かれたと推測される初期の詩だが、すでに彼の試みをはっきりと見て取ることができる。

「現れ」で使われる詩句は、12音節(アレクサンドラン)で平韻(AABB)。フランス語の詩句として典型的なもの。
伝統的な枠組みをあえて使うのは、フランス詩に親しんだ読者には、6/6のリズムが体に染みついているからだろう。
日本語であれば、5/7のリズムに匹敵する。

フランス詩では、リズムと意味は対応するのが基本。リズムから逸脱した要素は、意味的に強調される。
マラルメはありふれた型を設定し、その内部で様々な詩的技法を駆使することで、多様なリズム感を持つ美しい詩を作り上げた。
「現れ」は、そうした詩人の試みを体感させてくれる。

続きを読む