歴史を振り返り 世界の今を知る 1/3

どこの国でも同じことだが、一つの環境に身を置いていると、限られた視点からの情報にしか触れることができず、そのことにすら気づかないことが多い。
「情報過多の時代」と言われるものの、実際には視野の狭さは、以前とそれほど変わっていないのかもしれない。

日本にいると、「国際社会」という言葉がいまだに頻繁に使われ、欧米中心の世界観が現在でも国際的に認められていると思い込みがちである。
その結果、少なくとも国の数の上では、そうした状況が変化しつつある、あるいはすでに変化していることに気づかないままでいることが多い。
さらに、たとえ「国際社会」のダブルスタンダードに気づいたとしても、それをやり過ごしてしまう。欧米の価値観を基準に物事を判断する習慣から抜け出せず、抜け出そうともしない。

こうした中で、日本の価値観や世界観は、欧米の側に位置づけられている。そのため、「G7唯一のアジアの国」という表現が一種の誇りのように語られ、民主主義や自由といった価値がことさら重視される。
一方で、日本独自の価値観にも言及されることがあり、「欧米出身者が日本のここを評価した」「あそこに驚いた」といった内容が、マスコミやSNSを通じて盛んに発信される。こうした情報の発信元や評価の主語は、たいてい欧米出身者であり、それ以外の地域の人々が取り上げられることはほとんどない。
そのような二重基準の背景には、欧米諸国の人々に対する劣等コンプレックスと、それ以外の地域の人々に対する根拠のない優越コンプレックスがあるにもかかわらず、そこに無自覚なままでいることが多い。

こうした世界的な状況は、象徴的に言えば、「1492年のコロンブスによる新大陸の発見」に端を発する、西欧諸国による世界戦略に由来していると考えられる。
それ以来、ヨーロッパの国々はアフリカ大陸、アメリカ大陸、アジア各地を次々と植民地化し、支配してきた。その構造は、経済的には現在に至るまで形を変えて持続している。

ここでは、そうした歴史の流れを大まかに振り返りながら、現在の世界がどのような状態にあるのかを、先入観にとらわれずに理解することを目指したい。

(1)現状を知る

A. アメリカ合衆国の支配

第二次世界大戦以降、特に東西冷戦の終結以後、世界全体はアメリカ合衆国の強い影響下に置かれている。
その影響力は、現職の大統領であるドナルド・トランプの政策にも明らかであり、中東のイスラエル・パレスチナ情勢だけでなく、ウクライナを含むヨーロッパ諸国が経済的・軍事的に動揺していることからも見て取れる。同様のことは、日本や韓国についても言える。
ある意味で、「アメリカによる平和」(パクス・アメリカーナ)はこれまで一定程度機能してきたし、今後もそれを前提とした「世界平和」が前提と考えられている。

経済指標として名目GDPに注目すると、国際通貨基金(IMF)が2024年に発表した資料によれば、アメリカのGDPは約26兆ドルに達している。世界全体のGDPが約104兆ドルであることから、アメリカはその約25%を占めている。
また、世界の株式時価総額の約40%、ハイテク企業の収益はGAFAMを中心に約50%以上を、アメリカが占めている。

ただし、購買力平価(PPP)に基づくGDPや輸出額、外貨準備高といった他の指標では、中国がすでにアメリカを上回っており、アメリカ一極集中の体制が揺らぎつつあることもまた、見過ごせない現実である。

軍事力に関しては、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が2023年に公表したデータによれば、世界全体の軍事支出が約2.4兆ドルに対し、アメリカの軍事支出は約8800億ドルで、全体の約36〜37%に相当する。
第2位の中国の軍事支出は約2900億ドルであり、アメリカはその3倍以上にのぼる。

グローバル・ファイヤーパワー(Global Firepower)が2023年に発表した軍事力ランキングでは、第3位の中国が「アメリカにとって主要な軍事的敵対国になる」としてはいるが、しかしアメリカ合衆国が世界一位であることに変わりはない。
実際、医療、航空宇宙、通信などの主要分野で先進的であり、航空機隊や軍艦、輸送艦隊の戦力、医療、航空宇宙、通信などの主要分野で、優位性を保っているという報告がなされている。
(ただし、グローバル・ファイヤーパワーの信頼性に関しては、問題も指摘されているので、あくまでも参考程度の指標として理解しておきたい。)

16世紀後半のスペイン、そして19世紀のイギリスが「太陽の沈まぬ帝国」と呼ばれたように、現在ではその位置にアメリカ合衆国があると言ってもいいだろう。

B. 世界の勢力図

これまで見てきたように、経済的、軍事的に見れば、現在でも欧米とグローバス・サウスと呼ばれる国々の力の差は歴然としている。
しかし、国の数で見ればその立場は逆転し、まったく異なる世界像が浮かび上がる。端的に言えば、そうした世界像の中では「国際社会のルール」といった言葉は意味を失う。

具体例を挙げると、そのことがはっきりと見えてくる。

i. イスラエルとパレスチナ(ガザ)

イスラエルがガザ地区を日々攻撃する現実に、誰もが心を痛めている。その事実を踏まえたうえで、「国際社会」が「人道的な立場」からどのような行動を取るべきか?

国際連合では、2023年10月27日に緊急特別会合を開き、「人道的停戦(humanitarian truce)」を求める決議を採択した。
その際の投票結果は、賛成120か国、反対14か国(米国、イスラエルなど)、棄権45か国(日本も含まれる)だった。

同年12月12日には再び「人道的停戦」の決議が行われ、賛成国は153か国に増加(日本は賛成に回った)、反対は10か国、棄権は23か国に減少した。
この決議に反対した国は、アメリカ合衆国、イスラエルのほか、オーストリア、チェコ、ハンガリーなど。
棄権したのは、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、スペインなどの西ヨーロッパ諸国に加え、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンなどの北欧諸国が中心だった。

つまり、国の数で言えば、人道的な見地からの停戦に賛成したのは153か国で、反対と棄権を合わせた33か国を大きく上回る。
国連という場において、停戦支持が多数派なのだ。

2025年6月4日の国連安全保障理事会では、パレスチナ自治区ガザ地区における「即時、無条件かつ恒久的な停戦」に関する決議案が採決された。
この決議案は、停戦のほか、ハマスなどによって拘束されている人質の解放、ガザ地区への人道支援物資の搬入および配布に対するすべての制限の解除、国連や人道支援パートナーの安全なアクセスの確保などを求めるもので、非常任理事国10カ国(アルジェリア、デンマーク、ギリシャ、ガイアナ、パキスタン、パナマ、韓国、シエラレオネ、スロベニア、ソマリア)によって共同提出された。

では、その採決の結果はどうだったのか。
理事国15カ国のうち14カ国が賛成したものの、米国が拒否権を行使し、決議は否決された。

このように見ると、「国際社会」の声とは、欧米を中心とした少数派の視点であり、いわゆるグローバル・サウスに関しては、数は多いものの、国連の場、つまり国際的な舞台では力を持ち得ないことがわかる。

そして、その視点の違いにより、「現実」だけでなく「正義」さえも異なって見えるとすれば、「国際社会」の声とされるものが世界全体の総意ではないことは明白である。

そうした現状があるにもかかわらず、私たちは欧米中心の世界を「国際社会」と思い込む傾向がある。そして、その理由は歴史を振り返ることで見えてくる。

ii. ロシアとウクライナ

ロシアによるウクライナへの攻撃に対しても、国連ではさまざまな決議が行われてきた。

2022年2月24日にロシアがウクライナへの本格的な軍事侵攻を開始した直後、国連総会では、ロシアの行動を明確に「侵略」と定義し、ウクライナの主権・独立・領土保全を支持するとともに、ロシアに対して即時かつ無条件の撤退を求める決議「ウクライナにおける侵略を非難」が採択された。
このとき、賛成は141か国、反対は5か国(ロシア、ベラルーシ、北朝鮮など)、棄権は35か国(中国、インド、イランなど)だった。

2023年にも同様の決議が採択され、ロシア支持は一貫してごく少数(5〜7か国)にとどまり、賛成は全体の7割を超えていた。
ただし、実際にロシアに対して経済制裁を課し、軍事支援を行っているのは、主にG7諸国やヨーロッパの一部の国々に限られていた。

このように見ると、戦争が始まった当初、「ウクライナ支持、ロシア非難」がいわゆる「国際社会」の主流的な立場であったといえる。

ところが、2025年2月に行われた国連総会の決議を見ると、その傾向に変化が見られる。
ウクライナとEU加盟国が提出した決議案と、それに対してアメリカが修正案を出したが、総会での投票結果はいずれも賛成が93か国、反対と棄権を合わせて80か国以上、さらに欠席や無投票が約20か国に上った。

この数字を見ると、わずか2年の間に、ロシアを非難する決議に賛成する国が大幅に減少したことがわかる。
さらに現実として、ロシアに対して実際に制裁を課しているのは欧米諸国およびその同盟国を中心とする30〜40か国にとどまり、150か国以上、すなわち全体の約75%以上の国々は制裁に加わっていないのが実情である。

こうした中で、多くのグローバル・サウス諸国が立場を変化させてきたのは、必ずしもロシアの侵攻を容認しているからではない。
現実問題として、ロシアからの穀物、肥料、燃料の供給に依存しており、ロシアとの貿易関係を維持することが国益に直結する国も多い。
しかしそれと同時に、ウクライナ戦争とガザ情勢に対する欧米の二重基準(ダブル・スタンダード)を偽善的と見なす見方が広がり、その結果として、国連における投票行動でも棄権や不参加の立場を取る国が増えているのではないかと考えられる。

日本はこれまで一貫してウクライナ支援に賛成し、ロシアに対する制裁にも加わり、「国際社会」と歩調を合わせているという意識を持っている。
しかし、国の数という観点から見ると、制裁に加わる日本の立場は実は少数派に属しているという現実が浮かび上がってくる。


現在の世界情勢を現実的に見ると、経済的にも軍事的にもアメリカ合衆国の支配が依然として続いており、欧米中心の世界観が現在でも主流であることに変わりはない。
しかし同時に、国際政治の分野においては、米欧による一極体制がグローバル・サウスの台頭によって揺らぎ始めていることも、見逃してはならない。

「国際社会」という言葉を欧米の価値観だけで語る時代は、終わりつつある。
そうした状況をより的確に理解するためには、欧米による世界進出(=支配)が始まった16世紀以降の歴史を、世界史的な視野から捉え直していくことが有効である。(2/3へ続く)

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