エリュアール 自由 Paul Éluard Liberté 愛するものへの連祷(Litanie)

ポール・エリュアール(Paul Éluard)の「自由(La Liberté)」は、第二次世界大戦でフランスがナチス・ドイツに占領されていた時、祖国の解放を訴えかけた詩として知られている。
しかし、それと同時に、詩人が妻のヌーシュに捧げた恋愛詩でもある。

21ある詩節は全て4行からなり、21番目の詩節以外、詩節の4行目は« J’écris ton nom (ぼくは書く 君の名前を)»で終わる。
その前の3行はほぼ« sur(上に) »で始まり、名前を書く場所が様々に指定される。

愛する人の名前を至るところに書きたくなることは、誰にでもあることだろう。
そうした単純でわかりやすい構造は、ポール・エリュアールの詩の特徴だと言われる。

その一方で、詩には句読点がいっさい使われていない。そのことで読み方の自由さは増すが、解釈の曖昧さを生み出すことにもなる。
また、« sur »で示される場所に関して、身近な場所や自然であることもあれば、非常に抽象的であったり、現実と対応しない言葉であることもある。その結果、現実的なものと現実的とはいえないものが混在し、全体としては一つの「超現実(surréalité)」を形作るともいえる。
その視点からは、一見単純で明快に見える「自由」も、シュルレアリスム(超現実主義)の詩に属すると考えることができる。

Liberté

Sur mes cahiers d’écolier
Sur mon pupitre et les arbres
Sur le sable sur la neige
J’écris ton nom

自由

ぼくの学校時代のノートの上に
ぼくの机と木々の上に
砂の上に 雪の上に
ぼくは書く 君の名前を

ジェラール・フィリップの素晴らしい朗読を聞くと、この詩をフランス語で読む喜びを実感できる。約3分の間、美しい朗読に耳を傾けてみよう。

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メロディ・ガルド パリでの活動

アメリカのジャズ歌手メロディ・ガルドが、コロナ禍の間パリに住み、録音やコンサートをしたことを紹介したニュース。

Melody Gardot, la voix envoûtante

Intemporelle, sa voix, son swing, le décor et jusqu’à sa silhouette glamour, Melody Gardot poursuit son récit jazzy.

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エリュアール ゲルニカの勝利 Paul Éluard La Victoire de Guernica 

ポール・エリュアールは、アンドレ・ブルトンの主導するシュルレアリスム運動に参加した詩人。
ピカソなど他分野の芸術家とも親しく、1937年のパリ万国博覧会でピカソが「ゲルニカ」を展示した際には、エリュアールの「ゲルニカの勝利(La Victoire de Guernica)」も同時に掲げられた。

絵画と詩の題材は、1937年4月26日にドイツの爆撃機がスペイン北部の都市ゲルニカに対して行った爆撃であり、ピカソやエリュアールは、一般の市民たちが蒙った戦争の惨禍に衝撃を受け、抗議の声を上げたのだった。

「ゲルニカの勝利」の特色の一つは句読点がないこと。そのために、言葉と言葉の関係が自由になり、多様な解釈の仕方が可能になる。しかし他方では、その自由さが理解の難しさを生むことにもなる。

詩全体は14の詩節で構成される。その中で、第1詩節から第4詩節までは、ゲルニカの町と住民たち、そしてそこに死が襲ってきたことが歌われる。

ちなみに、第1詩節と第2詩節には、手書き原稿に残された版と1938年に出版された詩集『自然の流れ(Cours naturel)』に掲載された版で、語句の変化が二箇所ある。De la nuit / de la mine(1) au fond / au froid(2)
ここでは出版された版を本文とし、もう一方をカッコの中に入れて記載することにする。

La victoire de Guernica

I
Beau monde des masures
De la nuit (mine) et des champs

II
Visages bons au feu visages bons au fond (froid)
Aux refus à la nuit aux injures aux coups

III
Visages bons à tout
Voici le vide qui vous fixe
Votre mort va servir d’exemple

IV
La mort cœur renversé

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絵画のシュルレアリスム

シュルレアリスムは、20世紀前半、文学、絵画、演劇、映画などの分野で展開された芸術運動。日本で最もよく知られているシュルレアリスムの絵画は、サルヴァトール・ダリの「記憶の固執」だろう。

現実にはありえない事物や光景が描かれ、何を意味しているのかわからないが、そこに魅力を感じることもある、というのが、シュルレアリスム絵画の一般的な印象だと思われる。

しかし、絵画に関する書籍やネット上の解説等を見ると、アンドレ・ブルトンの『シュルレアリスム宣言』に依拠したシュルレアリスムの定義は一致していても、具体的な絵画表現や、取り上げられる画家がまちまちで、調べれば調べるほどわからなくなってくる。

例えば、ピカソのシュルレアリスム時代とそうでない時代の絵画。両者とも写実的ではないが、何が描かれているかある程度わかるという点では共通している。
では、一方がシュルレアリスム絵画とみなされ、他方はその分類に属さないと考えられるのはなぜか? それほど明確な答えは得られない(と私には思われる)。

20世紀前半の絵画の潮流は多様で、フォビスム、ドイツ表現主義、キュビスム、素朴派、ナビ派、エコール・ド・パリ、未来派、ダダイスム、抽象絵画などが混在し、一人の画家がいくつかの表現様式を使い分けるということもあった。
そうした中で、シュルレアリスム絵画をどのようなものと考えたらいいのか? ここでは、原理的な側面と実際の表現に関して、少しだけ探ってみよう。

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アンドレ・ブルトン シュルレアリスム宣言  André Breton Manifeste du surréalisme

シュルレアリスム(surréalisme)という言葉は、sur(上)とréalisme(現実主義)から成り、現実を超えたもの、つまり「超現実」を指し示す。
日本では、ダリ、エルンスト、マグリットなどの絵画を通して馴染み深いかもしれない。

20世紀前半最大の芸術思潮といえるシュルレアリスムを主導したのがアンドレ・ブルトン(André Breton)であり、1924年に発表された『シュルレアリスム宣言(Manifeste du surréalisme)』がその運動の開始を告げた。

1896年にノルマンディー地方に生まれたアンドレ・ブルトンは、大学で医学と心理学を学ぶと同時に、ボードレール、マラルメ、ランボーの詩に親しみ、ポール・ヴァレリーと知り合うなどした。
第1次大戦が始まると、最初は歩兵隊に動員され、次にナントの精神病院に配属になり、戦争の惨禍のために精神を病んだ患者たちの治療にあった。そこで、ジグムント・フロイトの精神分析学を学び、狂気の中に創造の可能性を見るようになる。
そうした経験が、『シュルレアリスム宣言』の精神的な基盤を形作った。

その宣言の中から、フロイトの精神分析的思考をブルトンがどのように応用したのかという部分と、シュルレアリスムの用語に関する部分を読んでいこう。

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ルビー・ブラフ Ruby Braff 気持ちよくスイングするトランペット

ルビー・ブラフ(Ruby Braff)は1927年生まれのジャズ・トランペッターで、1940年代後半から音楽活動を始め、2003年に亡くなった。

彼がギタリストのジョージ・バーンズ(George Barnes)と組んで録音したロジャース・アンド・ハートの楽曲集 ‘ Salutes Rodgers and Hart ‘ に収められた演奏は、とても気持ちが良い。
その中の一曲 ‘Mountain Greenery’を聴くだけで、ルビー・ブラフのトランペットの心地よさを感じることができる。

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ポール・ヴァレリー 若きパルク Paul Valéry « La Jeune Parque » 4~37行 私を咬む蛇

「Qui pleure là ?」(誰が泣いているの?)で始まる「若きパルク(La Jeune Parque)」は、冒頭の3行の詩句がオペラの前奏曲のような役割を果たし、自己が自己に問いかける自己意識のドラマの開始を告げる。
(参照:ポール・ヴァレリー 若きパルク 冒頭の3行 音楽と思想

その後、ヴァレリー自身の言葉によれば、連続する心理的な変転の数々(une suite de substitutions psychologiques)を通して、一つの意識が一晩の間に辿る変化(le changement d’une conscience pendant la durée d’une nuit.)を、512行の詩句によって描き出していく。

そうした中で、第4行目から第37行目までの断片は、オペラで言えば、第1場第1楽章ともいえる場面。
最初に話題になるのは、涙。
涙をぬぐおうとする手の動きや心の内が明かされる。(第4行~第8行)

Cette main, sur mes traits qu’elle rêve effleurer,
Distraitement docile à quelque fin profonde,
Attend de ma faiblesse une larme qui fonde,
Et que de mes destins lentement divisé,
Le plus pur en silence éclaire un cœur brisé.

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ポール・ヴァレリー 若きパルク Paul Valéry « La Jeune Parque » 冒頭の3行 音楽と思想

ポール・ヴァレリー(Paul Valéry)の「若きパルク(La jeune Parque)」は、512行に及ぶ長い詩。執筆期間は4年に渡り、その間に書かれた下書きは600ページにのぼるという。
内容的にもかなり理解が難しく、全てを読み通すためにはかなりの労力と根気と忍耐を要する。

その一方で、この詩が発表された当時から音楽性が高く評価され、ヴァレリー自身、18世紀の作曲家グルックやワグナーのオペラを念頭に置いていたことが知られている。
実際、「知性」のメカニスムとか「自己意識」のドラマといった哲学的な思索が、フランス語の詩句の奏でる美しい調べに乗せて運ばれている。

ここで冒頭の3行の詩句を取り上げるにあたり、まず最初に、詩句の音楽性を感じてみよう。

La jeune Parque

Qui pleure là, sinon le vent simple, à cette heure
Seule, avec diamants extrêmes ?.. Mais qui pleure,
Si proche de moi-même au moment de pleurer ?

若きパルク

誰がそこで泣いているの、ただの風でないのなら、こんな時間に、
1人で、極限のダイヤモンドと一緒に?・・・ でも、誰が泣いているの、
私自身のこんな近くで、泣いているこの時に?

以下のyoutubeビデオで、この3行の朗読を聴くと、フランス語の詩句の美を感じことができる。

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