レイモン・クノー 「もし思っているなら」 Raymond Queneau « Si tu t’imagines » Carpe diemのパロディ

« Si tu t’imagines »は、レイモン・クノーが1946年に出版した詩集『運命の瞬間(L’Instant fatal)』の中に収められた一編。その際のタイトルは、« C’est bien connu »。
その後、「枯葉」で知られるジョゼフ・コズマが曲をつけ、ジュリエット・グレコが歌った。

詩のテーマは、古代ローマから伝わる文学のテーマ「carpe diem(saisir le jour、今を掴め)」。
(参照:Carpe diem カルペ・ディエム 今を生きる

レイモン・クノーは、いかにも『地下鉄のザジ』の作者らしく、16世紀の詩人ピエール・ド・ロンサールの有名な詩「あなたが年老い、夕べ、燭台の横で(Quand vous serez bien vieille, au soir, à la chandelle)」などを下敷きにしながら、20世紀中頃の口語や俗語を交え、音が耳に残るパロディ作品を作り上げた。
(参照;ロンサール 「あなたが年老い、夕べ、燭台の横で」 Pierre de Ronsard « Quand vous serez bien vieille, au soir, à la chandelle » 

幸い、youtubeには、ジュルエット・グレコが1961年に東京で公演した際の映像がアップされている。彼女の表情が表現豊かに変化する様子を見るだけで、少女の瑞々しさと老婆の衰えとの対比を描いた詩句の内容が伝わってくる。だからこそ、今すぐに、「命のバラを摘め」 « cueille les roses de la vie »、と。

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現代の若者が使うフランス語

どの言葉も変化しますが、現代の若者たちのフランス語も次々に新しい言葉を作り出しているようです。

“Hassoul, ça veut dire tranquille”.
“faire belek, c’est faire attention”.
“un maxeur, c’est quelqu’un qui est toujours dans l’abus”.
“En chap-chap, c’est plus une expression ivoirienne, mais ça veut dire faire quelque chose de façon rapide”.
“J’ai dead ça” veut dire qu’on a réussi. 
“Je suis chockbar” signifie être choqué.

Il y a 40 ans, on demandait déjà aux jeunes ce que voulait dire “keufs” (policiers), lascars ou encore “gadjo” (jeune homme).

日本人にはなぜ英語やフランス語の習得が難しいのか? 構文について考える

日本人にとって、英語やフランス語を習得するのは難しい。その理由は何か?

答えは単純明快。
母語である日本語は、英語やフランス語と全く違うコンセプトに基づく言語。そのことにつきる。

この事実は当たり前のことだが、しかし、日本語との違いをあまり意識して考えることがないために、どこがわかっていないのかがはっきりと分からないことも多い。
例えば、英語の仮定法と日本語の条件設定との本質的な違いを理解しないまま、if を「もし」と結び付けるだけのことがあり、そうした場合には、大学でフランス語の条件法を学ぶ時も、英語のifで始まる文と同様にsiで始まる文が条件法の文だと思ってしまったりする。

これは一つの例だが、ここでは問題を語順に絞り、日本語とフランス語の違いがどこにあり、日本語を母語にする人間にとって、どこにフランス語習得の難しさがあるのか考えてみよう。

ちなみに、これから検討していく日本語観は、丸山真男が「歴史意識の中の”古層”」の中で説いた、「つぎつぎに/なりゆく/いきおい」という表現によって代表される時間意識に基づいている。丸山によれば、日本人の意識の根底に流れるのは、常に生成し続ける「今」に対する注視であり、それらの全体像を把握する意識は希薄である。
そうした意識が、日本語という言語にも反映しているのではないかと考えられる。

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歌のちから ー 外国語学習から詩の観賞まで

私たちは好きな歌を何度も聴く。歌詞はすでに知っていて、聞く前から言葉の意味はわかっている。それにもかかわらず、何度聴いても飽きることがない。
その理由はどこにあるのだろう?

ある研究によると、言葉をほとんど話すことができない子どもでも歌を聞いてある程度反復できるが、しかし歌詞だけを取り出すことは難しいという。

歌は、「メロディー」「リズム」「調性」「歌詞」「音色」などの要素から構成される。
実験に参加した2歳の子どもたちは、「メロディー」は上手でなくても「リズム」に乗って「歌詞」を口ずさむけれど、「歌詞」の「言葉」だけを話すように頼むと途端に発音できなくなった。
この実験が教えてくれるは、歌詞の意味がわからなくても、音楽と一緒であれば言葉の音声を記憶できる、ということである。

母語を習得する過程においても、幼児は身近な大人たちの音声を聞き、聞こえた音を反復する。
言語に「表現(文字、音声)」と「内容(意味)」という2つの側面があるとすると、最初に反復の対象になるのは「音」にすぎない。
それが「意味」と繋がるのは、「マンマ」という音の塊が、食べ物と連動することを記憶した時でしかない。
まず「音」があり、次に「意味」が来る。

このようなことを考えると、言語における「音」の重要性がはっきりと理解できる。

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Charles Aznavour «La Bohême» シャルル・アズナヴール 「ラ・ボエーム」

Charles Aznavourの« La Bohême »は、日本のシャンソン歌手にとりわけ好まれ、日本でも数多く取り上げられてきた。
2022年の北京オリンピックのフィギュア・スケートで、ネイサン・チェン(Nathan Chen)のショートプログラムの演技を見ていたら、« La Bohême »がバックに流れていて、しかも ネイサン・チェンの手の動きがアズナヴールの手の動きを思わせる部分があり、ちょっとびっくり!

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Céline Dion « Pour que tu m’aimes encore » セリーヌ・ディオン 「愛をふたたび」 (If that’s what it takes)

セリーヌ・ディオンは映画「タイタニック」の主題歌« My Heart Will Go On »で知られるように、圧倒的な声量と卓越した歌唱力が評価されている。
しかし、1995年にフランス語で発表した« D’eux »というアルバムでは、ジャン・ジャック・ゴルドマンから楽曲の提供を受け、言葉を大切にした歌い方を心掛けたという。« Pour que tu m’aimes encore »はそうした歌の一つ。

フランス語学習の面からだと、Pour queの後ろの動詞は接続法が来るので、Il faut que tu saches, je veux que tu saches等と共に、接続法を自然に覚えるために訳に立つ。
また、直説法単純未来形も数多く使われ、語尾のRの音が耳に残り、未来形を音で認識できるようになるだろう。

Pour que tu m’aimes encore あなたが私をもう一度愛してくれるように

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Zaz « Je veux » ザズ 「私の欲しいもの」

ザズの« Je veux »に関しては、色々なサイトで試訳が試みられているので、あえてもう一つ付け加える必要もないほどなのだが、ここで取り上げるのには一つの理由がある。

それは、日本人が英語やフランス語の音を習得する時に問題になることを、はっきりと意識させてくれる素材だからである。

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Jacques Brel « Ne me quitte pas » ジャック・ブレル 「行かないで」

フランス語の歌で、世界的に最も知られている曲は、たぶんジャック・ブレル(Jacques Brel)の« Ne me quitte pas »だろう。フランスだけではなく、英語、ドイツ語、イタリア語、アラビア語、ヘブライ語、チェコ語、ポーランド語など、様々な言語で歌われているとフランス語版のWikipediaに書かれている。また、Wikipediaの日本語版にも出てくるし、日本語訳で歌われることもあり、ネット上では対訳が幾つか掲載されてもいる。

« Ne me quitte pas »は、バルバラの« Dis, quand reviendras-tu ? »と同じように、構文が簡単で単語を覚えるのに役に立つ。そこで、文章と単語が自然に頭に残るようにするために、参考につける日本語は、他の歌の場合と同じように、できるかぎりフランス語の構文と対応させていく。

Ne me quitte pas (quitter「別れる、去る、捨てる」tu quittesの命令形はquitte. 語尾のsが取れる。)
ぼくと別れないで(行かないで)

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Barbara « Dis, quand reviendras-tu ? » バルバラ 「いつ戻ってくるの?」

バルバラは、言葉を大切にして語り掛けるように歌った歌手で、« Dis, quand reviendras-tu ?» は今でもフランスで大変に人気がある。

フランス語学習という点から見ると、単純未来形が多く使われ、語尾の« r »の音が自然に耳に残るし、簡単な構文の文が続くため、単語や熟語を覚えるためにも役に立つ。

Dis, quand reviendras-tu ?
ねえ、いつ戻ってくるの?

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Michel Sardou « Je vole » ミッシェル・サロドゥー 「飛び立ちます」

ミシェル・サルドゥーの« Je vole »は、親のもとから飛び立っていく子どもの心情を歌った曲。最初と最後は歌われ、中間は音楽に乗せた語りになっている。

2014年に公開された映画『エール(原題 La Famille Bélier)』の中では、ラストシーンで« Je vole»がルアンヌ(Louane)によっ歌われ、映画の大ヒットにつながった。
こちらで、セリフの部分が歌詞に変えられ、全て歌われている。

Je vole 飛び立ちます

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