ジャン・ジャック・ルソー 視野を遠くに広げることを学ぶ 『言語起源論』 Jean-Jacques Rousseau Essai sur l’origine des langues

ジャン=ジャック・ルソーは、『言語起源論』第8章において、ヨーロッパ人の欠点として、他の地域についての知識に無関心であること、さらに自分たちの知見を他の地域にまで安易に適用してしまうことを指摘している。
そして、さまざまな違いを理解することによってこそ、人類全体を知ることができると、非常に簡潔な文章で読者に伝える。

Le grand défaut des Européens est de philosopher toujours sur les origines des choses d’après ce qui se passe autour d’eux. Ils ne manquent point de nous montrer les premiers hommes, habitant une terre ingrate & rude, mourant de froid & de faim, empressés à se faire un couvert & des habits ; ils ne voient partout que la neige & les glaces de l’Europe ; sans songer que l’espèce humaine, ainsi que toutes les autres, a pris naissance dans les pays chauds, & que sur les deux tiers du globe l’hiver est à peine connu.

Jean-Jacques Rousseau, Essai sur l’origine des langues, ch. XIII.

ヨーロッパ人の最も大きな欠点は、さまざまな事物の起源について、自分たちの身近で起こることに基づいて常に哲学(考察)してしまう点である。原初の人間を描写する際には、必ず、不毛で荒れ果てた土地に住み、寒さや飢えに苦しみ、布団や衣服を作ることに追われていたとする。ヨーロッパ人がいたるところで目にするのは雪や氷河ばかりであり、人類が他のすべての種と同様に、暑い地域で誕生し、地球の三分の二の地域では冬をほとんど知らないことなど、夢にも思わないのである。

こうした傾向は、ヨーロッパ人だけではなく、私たち全てに当てはまる傾向だといえる。何かを考えるとき、自分の視点が中心になるのは当然のことだが、しかし、多くの場合、人が自然に目を向けるときに観察や経験の範囲に入ってくるものも身近なものだけになりがちである。
逆に言えば、いつも同じものが見えているために、それだけが全てだと思いがちになることも多い。

このような私たちの傾向に対して、ルソーは簡潔に、「人間」を知るためには他者を見ることが必要だと説く。その際、彼は個々の人間たち(les hommes)と人間一般(l’homme)とを区別していることに注意しよう。

Quand on veut étudier les hommes, il faut regarder près de soi ; mais pour étudier l’homme, il faut apprendre à porter sa vue au loin ; il faut d’abord observer les différences pour découvrir les propriétés.

個々の人間たち(les hommes)を研究しようとする場合は、自分の身近なところを観察しなければならない。しかし、人間一般(l’homme)を研究するためには、視野を遠くに広げることを学ぶ必要がある。最初に違いを観察することが、人間の本質的な特徴を発見するために不可欠である。

自分の近くにいる(près de soi)同質な人間だけを見ている限り、同質のものしか目に入らない。その場合、常に同じものしか見えないため、それが全てだと思い込み、世界中にはそれしか存在しないと思ってしまう。

だからこそ、学ぶべきことは、「視線を遠くに持っていくこと(porter sa vue au loin)」、つまり「視野を広く持つこと」である。
そのようにすれば、必然的にさまざまな違い(les différences)が見えてくる。
そして、それによって、身近な仲間だけでなく、異なる背景を持つさまざまな人々も含めた人間という存在がどのようなものか、いくつもの特徴(les propriétés)を発見することができる。


同質な人間だけを見ている限り、同質のものしか見えてこない。その場合、常に同じものしか目に入らないため、それが全てだと思い込み、世界中にはそれしか存在しないと思ってしまう。
その結果、外からやってくる人や物を排斥することを主張し、実際にそのような行動に出てしまう可能性もある。

だからこそ、今こそ改めて学ぶべきことは、「視線を遠くに持っていく(porter sa vue au loin)」ことである。視野を広く持てば、さまざまな違い(les différences)が見えてくる。そして、それによって、身近な仲間だけでなく、異なる背景を持つさまざまな人々を含めた人間(l’homme)という存在がどのようなものか、その特徴を発見することができる。

ここで述べられたジャン=ジャック・ルソーの思想は、自分の視線を自国や同質の仲間だけに閉じる傾向が強まっている現代において、改めて思い出す価値がある。

コメントを残す