「オー・シャンゼリゼ」は、日本で最もよく知られたシャンソンの一つだが、この「オー」の意味は今でも時々誤って理解されることがある。シャンゼリゼにやって来て、「オー!」と感嘆の声を上げた、というふうに思われているらしい。
しかし、歌詞を見ると、リフレインの部分には « Aux Champs-Élysées » とあり、「オ」は「シャンゼリゼで」という場所を示す前置詞であることがわかる。
歌詞の内容はとてもロマンチックだ。シャンゼリゼをひとり寂しく歩いていた「私」が、偶然出会った「君(あなた)」に恋をする。昨日の夜は赤の他人だったのに、今朝は恋人。朝が明けると同時に、鳥たちが二人の愛を歌ってくれる。その出会いは、偶然ではなく、運命だったのだ。
道で声をかけたとき、「何でもいいから」とにかく話しかけたのは、« pour t’apprivoiser »、つまり、君(あなた)と「絆を結びたかった」からだという。
この « apprivoiser » という動詞は、『星の王子さま』で、キツネが王子さまに「絆を結ぶ」ことの大切さを教える場面でも使われている言葉だ。
そんなことを頭に置きながら、ジョー・ダッサン(Joe Dassin)の歌 « Les Champs-Élysées » を聴いてみよう。ちなみに原題には前置詞は入っていない。
Je m’baladais sur l’avenue
大通りをブラブラしていた、
Le cœur ouvert à l’inconnu
心を未知のものに開いて。
J’avais envie de dire bonjour à n’importe qui
「こんにちは」って言いたかった、誰に向かっても
N’importe qui, ce fut toi
誰でもよかった、それが君だった。
Je t’ai dit n’importe quoi
君に何でもいいから話してみたんだ。
Il suffisait de te parler
君と話すだけでよかった、
Pour t’apprivoiser
仲良くなるために。
〈リフレイン〉
Aux Champs-Élysées
シャンゼリゼで、
Aux Champs-Elysées
シャンゼリゼで、
Au soleil, sous la pluie À midi ou à minuit
日差しの下でも、雨の下でも、お昼でも、夜中でも、
Il y a tout c’que vous voulez
欲しいものがみんなある、
Aux Champs-Élysées
シャンゼリゼには。
Tu m’as dit, “j’ai rendez-vous”
君はぼくに言ったよね、「待ち合わせがあるの、
“Dans un sous-sol, avec des fous”
地下のクラブで、おかしな人たちと。
“Qui vivent la guitare à la main, du soir au matin”
その人たち、手にギターを持って生きてるの、夜から朝まで。」
Alors, je t’ai accompagnée
だから、ぼくは君についていったんだ、
On a chanté, on a dansé
みんなが歌ってた、踊ってた、
Et l’on n’a même pas pensé à s’embrasser
キスすることさえ考えなかった。
〈リフレイン〉
Hier soir, deux inconnus
昨日の夜は見知らぬ二人。
Et ce matin, sur l’avenue
そして、今朝は、大通りで、
Deux amoureux tout étourdis par la longue nuit
二人の恋人、長い夜に酔いしれてぼんやりしてる。
Et de l’Étoile à la Concorde
エトワールから凱旋門まで、
Un orchestre à mille cordes
千の弦を奏でるオーケストラみたいに
Tous les oiseaux du point du jour chantent l’amour
夜明けの鳥たちみんなが、愛の唄を歌ってる。
日本では、岩谷時子と安井かずみ、二人の訳詞によって歌われている。
原文との違いも興味深いが、日本語の歌詞として、訳詞家たちがどのような感性を働かせているのかを見てみるのも楽しい。
岩谷時子訳詞
ひとりで街をぶらぶらしながら
話しかけたいな こんにちは
相手は誰でも あなたでもいい
私のとりこにしてみたい
オー・シャンゼリゼ オー・シャンゼリゼ
欲しいものが昼も夜中も
ここにはあるよ
オー・シャンゼリゼ
頭のおかしい男がギターを
弾いてる店など いいじゃない
踊って 歌って それも飽きたら
穴ぐらのバーへ出かけよう
オー・シャンゼリゼ オー・シャンゼリゼ
欲しいものが昼も夜中も
ここにはあるよ
オー・シャンゼリゼ
きのうは顔も知らない二人が
ぼんやりしてる街の朝
早起き雀が高い屋根から
恋人たちに愛を歌う
オー・シャンゼリゼ オー・シャンゼリゼ
欲しいものが昼も夜中も
ここにはあるよ
オー・シャンゼリゼ
歌:越路吹雪
安井かずみ 訳詞
街を歩く こころ軽く
誰かに逢える この道で
素敵なあなたに声をかけて
こんにちは 僕と行きましょう
オー・シャンゼリゼ オー・シャンゼリゼ
いつも何か素敵なことが
あなたを待つよ
オー・シャンゼリゼ
あなたを連れて遊びに行こう
みんな集まる あのクラブ
ギターを弾いて 朝まで歌う
楽しく騒いで恋をする
オー・シャンゼリゼ オー・シャンゼリゼ
いつも何か素敵なことが
あなたを待つよ
オー・シャンゼリゼ
昨日までは知らない同士
今日から二人 恋人さ
道を行けば世界は揺れて
愛する君と僕のため
オー・シャンゼリゼ オー・シャンゼリゼ
いつも何か素敵なことが
あなたを待つよ
オー・シャンゼリゼ
歌:南沙織