富士山を通して見る日本人の心情 3/3 空に消えてゆくへも知らぬわが思い

奈良時代から鎌倉時代前期にかけて、人々が富士山に託した思いは、「神さびて高く尊き」信仰の対象から、「恋の炎」に象徴される情念の山が加わり、さらに「空し」といった無常観を帯びることもあった。

ここで注意したいのは、富士山の象徴がいつの時代にも多層的であり、いずれか一つの側面が他を排除することはなかったという点である。神聖、燃える恋、儚い恋、そして無常、それらが共存していたことこそ、きわめて日本的な現象であるといえる。

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