これまで耳にしたことのなかったフランスの女性歌手を、YouTubeでたまたま聴いた。名前も経歴もよく知らないまま、ただ曲だけが流れてくる。それぞれに雰囲気があって、声の質も、歌い方も少しずつ違う。
最初に見つけたのは、Camille Brise(カミーユ・ブリーズ)。
Éva Lenoir(エヴァ・ルノワール)
Élise de Lune(エリーズ・デゥ・リュンヌ)
少し前までだったら、もう少し知りたいと思ったら、wikipediaなどを見て、経歴やディスコグラフィーを調べたりして、その歌手の歌をもう少し探したりしただろう。
ところで、エヴァ・ルノワールは「AI(人工知能)によって生成されたバーチャル・ジャズシンガー」であることがわかっている。
エリーズ・デ・リュンヌに関して言えば、Spotify, Apple Music, Quoduzなどにもアップされていて、実在するように思われる。しかし、やはり、AIによって生成されたバーチャル・ジャズシンガーだという。
カミーユ・ブリーズもたぶんAI歌手だと思われる。ただし、確証はない。
では、AI歌手だと知ったあと、違和感を覚えるだろうか。
そして、もしそんな感じを持つとしたら、なぜだろう。
曲そのものが変わったわけではない。声の質も、フレーズの運びも、さっきまで聴いていたものと同じだ。それでも、どこかに引っかかるものが残るとしたら、それはなぜなのか。
その背景には、AIが音楽をつくる人たちの仕事を奪う可能性がある、という思いが、心のどこかに残っているのかもしれない。ただし、それは今、耳にしている音楽そのものとは、直接には関係がない。
そう考えると、この違和感は、音楽の問題というよりも、人間がAIとどう向き合っているか、その関係の中で生まれているものなのではないか。
そして、そうだとすれば、AIが人間の生活の中に入り込んでくるにつれて、その関係は、これから徐々に変化していくだろう。
今の音楽シーンを見ていると、AIが作った曲が本当にたくさんアップロードされている。配信全体の三割を超えている、という話もあるそうだ。欧米では、AI生成の楽曲がすでにメインストリームに入り込んでいて、アメリカのチャートではトップ10にAI曲がいくつも並び、ときには首位に立つことさえあるという。
これをどう受け止めるかは、人によってかなり違うだろう。
ただ、音楽を聴く側に立ってみると、「誰が作ったのか」「誰が歌っているのか」は、案外あとからついてくる話なのかもしれない。そもそも、流れてきた曲が好きかどうか、それがいちばん大事なはずだ。
何気なく曲が流れてきて、「あ、いいな」と思う。たぶん、それが最初の音楽体験だったはずだ。
AIで作られた音楽は、そんなことを思い出させてくれる。