日本語を母語とする人にとって、フランス語の比較級のうち、優等比較(plus…que)や同等比較(aussi…que)は比較的すんなり理解できる。しかし、劣等比較(moins)になると、やや抵抗を覚えることがある。
さらに、そうした文が否定形になると、その都度立ち止まって考えなければならない場合が多い。
« Il n’est pas moins intelligent que courageux. »
彼は知的なのか、勇敢なのか、あるいは両者の程度がどう比較されているのかが、直感的にはつかみにくいのではないだろうか。
そこで、次の四つのケースを整理し、すぐに理解できるようにしてみたい。
(1) Il n’est pas moins intelligent que courageux.
(2) Il n’est pas tant intelligent que courageux.
(3) Il n’est pas plus intelligent que courageux.
(4) Il n’est pas aussi intelligent que courageux.
1. Ne pas moins A que B (AはBに劣らない)
Il n’est pas moins intelligent que courageux.
彼は勇敢さに劣らず知的だ。
彼は知的であり、それは勇敢さに劣らない。
劣等比較(moins)を否定することでAを強調する構文であり、重心はAに置かれる。つまり、「AはBに劣らない(~に劣らず)」という意味になる。
ポイントは、AとBの双方を肯定したうえで、A(intelligent)を引き上げる点にある。すなわち、「Aは劣ると思われがちだが、実はBに劣らない」というニュアンスを表現する際に用いられる。
ne…pas moins という連続は、直後に置かれるAを強く肯定する働きを持つ。さらに、「それはB以上でもありうる」と理解していくと、フランス語文を前から順に読みながら、そのまま把握しやすくなる。
2. Ne pas tant A que B (AというよもむしろB)
Il n’est pas tant intelligent que courageux.
彼は知的というよりも むしろ勇敢だ。
tant は比較というよりも程度(「それほど」)を示す語である。したがって、ne pas tant A は「Aである度合いはそれほどでもない」という含みを持ち、結果として「むしろBである」というニュアンスの文になる。
ポイントは、A(intelligent)を相対的に弱め、重心がB(courageux)へと移動するところにある。そのため、ne…pas moins A que B とは、AとBの力点が逆になる。
ただし、いずれの場合も、AとBのどちらかを完全に否定しているわけではない。彼は知的でもあり、勇敢でもある。そのうえで、どちらに重心が置かれているのかが問題なのだ、という点に注意したい。
3.ne … pas plus A que B (AでもBでもない)
Il n’est pas plus intelligent que courageux.
勇敢でないのと同じく、知的でもない。
plus A que B では、「BよりもAである」という比較が行われる。それを ne…pas で否定するので、論理的には「AがBより上であることはない」という意味になるはずである。
しかしフランス語では、慣用的に「AもBも同様にそうではない」と解釈されることが多い。
その理由は、優劣の比較そのものよりも、「両方ともその性質を欠く」という否定に比重のかかった理解がなされる傾向があるからだと考えられる。
注意 1
ne…pas plus A que B は、意味としては ne… ni A ni B とほぼ同じになる。
Il n’est ni intelligent ni courageux.
彼は知的でも勇敢でもない。
違いは、ne… ni A ni B が明示的な二重否定構造であるのに対し、ne… pas plus A que B には比較の意識が残る点にある。
つまり、「AがBより上であることはない」という含みを保ちながら、結果としてAとBの双方を低く評価する構文になっている。
注意 2
両方が否定される意味になるのは、intelligent と courageux のように、AとBが同質(同じカテゴリーの性質)である場合である。
AとBが異質の場合、たとえば
A = intelligent、B = frère(兄弟)
のようなときには、単なる比較の否定になる。
Il n’est pas plus intelligent que son frère.
彼は兄より賢いわけではない(同程度か、劣る)
4. Ne…pas aussi A que B (だけれど・・・ほどではない。)
Il n’est pas aussi intelligent que courageux.
彼は勇敢であるほどには知的ではない。
彼は知的ではあるが、勇敢さほどではない。
「Bと同じくらいAである」という同等比較 aussi A que B を否定することで、「BほどAではない」というのが字義通りの意味になる。
ポイントは、AもBも否定しているのではなく、単に「程度が同等ではない」という意味での否定であるという点にある。
したがって結局のところ、「A(intelligent)ではあるが、B(courageux)ほどではない」という意味になる。
この構文では、重心はBに置かれる。Bが基準となり、Aはそれに達していない、という関係が示される。
以上の要点を簡潔にまとめると、次のように整理できる。
ne pas moins A que B → Aを再評価
ne pas tant A que B→ Bへ重点移動
ne pas plus A que B → AもBも否定
Ne pas aussi A que B → AもBも肯定した上で、A < Bという序列化
AとBのどちらに重心が置かれているのかを意識しておけば、比較表現の否定形に出会ったときにも、何にポイントが置かれているのかを即座に把握できる。
その結果、文章理解の精度は大きく向上するはずである。