たまたま青木繁の「朝日」を目にした。
絵画を鑑賞する際には、描かれた世界の中に入り込むのが一番なので、まずは絵そのものを見つめてみよう。

ここに描かれているのは、雄大にうねる波と赤く染まりゆく空が、今にも溶け合おうとする姿。
(1)色彩
海は、群青色や紫で描かれた波がゆったりとたゆたい、物質的な重みと底知れぬ静寂をたたえている。その重厚な感覚に対して、波頭の白さと射し始めた光が、海面に確かな生命感を与えている。
一方の空は、金色から淡いピンク、そして薄紫へと色彩が変化し、おぼろげながらも、今まさに昇りつつある太陽の温かさを伝えている。
(2)筆致(タッチ)
海は、短く力強い筆致によって絵具の質感が際立っている。色彩に「物質としての重み」が加わることで、波の振動が直接的に響いてくる。
対照的に空は、薄く層を重ねるように描かれ、大気の軽やかさと広がりのある光が表現されている。
(3)グラデーションによる境界の消失
海の「冷色(青・紫)」と空の「暖色(黄・橙)」、そして重厚さと軽やかさという二つの対比は、水平線付近で鮮やかに溶け合う。太陽の光が海面へと滴り、海の青が空の低い位置に霞として立ち上るその様は、まさに色彩の境界が調和し、溶け合っていくかのようだ。
「朝日」という画題は、昇りゆく太陽が暗い海を照らし始め、闇から光へと移り変わる「瞬間のドラマ」を捉えている。それこそが、この絵に刻まれた情景に他ならない。
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