二種類の自己愛 ルソー 『エミール』 Jean-Jacques Rousseau Émile Livre IV “amour de soi” et “amour-propre”

人間は一人で生きることはできない。よほど例外的なことがなければ、必ずなんらかの集団の中で生きる。
そして、人とのかかわりの中で、自分らしい生き方をしたいという気持ちと同時に、自分のしたいことだけしていたら人からどのように見られているのだろうといったことも気にかかる。
自己認識は決して他者と無関係でいられない。

自己愛に関する考察も、他人とのかかわりの中で自分がどのように振る舞うべきか、という問題につながる。
17世紀のフランスでは、人間の本質は理性にあると考えられた時代であり、複雑な人間関係が織りなされた社会の中で、理性によって感情をコントロールすることが求められた。その際、自己愛は感情の基底をなすものであるからこそ、最も用心すべきものとして考察の対象となった。

それに対して、18世紀後半になると、人間の本質は理性から感情へと位置を移動させられる。考えることよりも感じることが、人間の根底にあると見なされるようになったのだった。
その移行を最も明確に言葉にしたのが、ジャン・ジャック・ルソー。
ルソーは、自己愛に関して、amour de soiとamour propreという二つの言葉の言葉を使い、それらを対照的なものとして定義した。

例えば、『人間不平等起源論』では、二つの自己愛を明確に対立させている。

Il ne faut pas confondre l’amour-propre et l’amour de soi-même, deux passions très différentes par leur nature et par leurs effets.
L’amour de soi-même est un sentiment naturel qui porte tout animal à veiller à sa propre conservation, et qui, dirigé dans l’homme par la raison et modifié par la pitié, produit l’humanité et la vertu.
L’amour-propre n’est qu’un sentiment relatif, factice, et né dans la société, qui porte chaque individu à faire plus de cas de soi que de tout autre, qui inspire aux hommes tous les maux qu’ils se font mutuellement, et qui est la véritable source de l’honneur.

Jean-Jacques Rousseau, Discours sur l’origine et les fondements de l’inégalité parmi les hommes

続きを読む

ルソー エミール Jean-Jacques Rousseau Émile Profession de foi du vicaire savoyard 自然宗教 Philosophie naturelle 

ジャン・ジャック・ルソーは、五感を通して感じる「感覚(sensation)」と、その感覚が引き起こす「感情(sentiment)」を人間存在の中心に据え、個人と社会のあり方について様々な思索を展開した。

1762年に出版された『エミール』では、子供から成人に至るまでの人間の成長を見据えた教育論であるが、青年時代を扱う章の中で、宗教感情について論じている。

その際に、「サヴォワ地方の助任司祭(vicaire savoyard)」を登場させ、助任司祭の「信仰告白(profession de foi)」という形式で、「自然宗教(la religion naturelle)」がどのようなものかを定義する。
「自然宗教」とは、キリスト教の人格化された神や教会の儀礼を否定し、人間が生まれながらに持っている感受性や、聖なるものを信じる気持ちに基づいている、普遍的な信仰心と言えるだろう。

続きを読む