恋愛は3年しか続かない  トリスタンとイゾルデの物語 科学の実験

トリスタンとイゾルデの名前は、日本では、リヒャルト・ワグナーのオペラ『トリスタンとイゾルデ』を通してよく知られている。

イングランドの南西端に位置するコーンウォールの騎士トリスタンは、マルク王の命令に従い、アイルランドのイゾルデを、王の妃とするために連れ去ろうとする。しかし、帰途の船上で、2人は誤って媚薬を飲み、激しい恋に落ちる。そして、その恋は、二人の悲劇的な死へとつながっていく。

この媚薬をどのように理解するかは様々であり、2人は最初から惹かれ合っていて、その気持ちを象徴するものとも考えられるし、あるいは、人間が逆らうことのできない運命と見なすこともできる。

では、その媚薬の効果に期限はあるのだろうか?
実は、トリスタン物語は元来ケルト民話の中で語られたものであり、11−12世紀にフランスで活字化された物語の中には、媚薬に期限が付けられているものがあった。
ベルールという語り手による「トリスタン物語」はその代表であり、恋の薬の有効期限は3年とされていた。

面白いことに、3年という期間は、アメリカの科学者が実験した結果と一致している。
恋人の写真を見せ、脳内の反応をMRIで測定すると、ドーパミンが作られる部位に反応するという。ただし、その効果は18ヶ月から3年しか持たないらしい。といったことが、以下のyoutubeビデオを見るとわかる。

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マリー・ド・フランス すいかずらの短詩 12世紀文学への最初の一歩

12世紀のフランス文学がどのようなものだったのか、フランス文化に親しんでいる人間であれば、誰でも興味があるだろう。
しかし、知識のないまま読んでみて、最初から楽しさを感じるのは難しい。

「恋愛は12世紀フランスの発明品」という有名な言葉があり、恋愛について考えたり、話のネタにはなりそうなのだが、実際に作品を読むと現代の読者には味気なく感じられるかもしれない。

日本では万葉集や古今和歌集の伝統が8世紀から続き、11世紀にはすでに『源氏物語』が書かれている。平安時代の日本文化は世界でも最高水準に達していたと言っても過言ではない。
そうした繊細でニュアンスに富んだ恋愛を描いた日本文学に比べ、12世紀フランスの恋愛物語から心の機微を感じることはまれで、恋愛小説的な面白さを求めてもがっかりすることになるだろう。

逆に言えば、アプローチする場合には、それなりの知識や読む技術が必要になる。
ここでは、翻訳でわずか5ページに収まる、マリー・ド・フランスの短詩「すいかずら」を読み、12世紀フランス文学への第一歩を踏み出してみよう。

すいかすらと呼ばれるレーの、まことの物語を皆さまにお話しし、
その由来をお伝えするととこそ、私の喜びであり、願いでもある。

トリスタンとかの王妃について、また、大層こまやかであった恋について、
私は多くの人から語り聞かされ、書物の中に読んだこともある。
二人は恋のため数知れぬ悲しみを経て、ついには同じ日に命絶えたのである。

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