議会制民主主義の費用対効果 日本の場合

年金制度をめぐるフランス国内の混乱における政治家たちの姿、日本の国会議員選挙の結果などを見ていると、議会制民主主義という政治制度が今日において機能しうるのかどうか、疑問に思えてくる。
問題は、それに代わる制度が提案されないことなのだが、その一方で、「議員報酬が高すぎる」とか「政治には金がかかる」といった言葉の中身を具体的に知っておくことも必要だろう。

衆議院と参議院から構成される国会は、行政府(政府)、司法府(裁判所)とともに三権分立の柱をなす立法府であり、その職務の中心は、法律の制定、予算の議決と決算など。
その職務に値する議員を選ぶために行われるのが選挙であり、国民は投票権を持つことで、国会議員を選ぶ権利を有する。

この当たり前を前提として、国会議員に対して、国民が負担する金額をざっと数えてみよう。

1)議員1人に一年間でかかる金額 ー 約1億円

a. 議員数

衆議院議員の定数は465人。(小選挙区選出議員289人、比例代表選出議員176人)。
参議院の定数は248人。(選挙区選出議員148名、比例代表選出議員100名)。
国会議員総数は、713人。

b. 各種手当て 1議員あたり約6000万円(以上)

○基本給1552万8000円(月額129万4000円)
○期末手当(ボーナス)635万円
○文書通信費1200万円(月額100万円)(公開義務づけなし)
○立法事務費780万円(月額65万円)(公開義務づけなし)
○JR特殊乗車券、国内定期航空券。(65万円まで公開義務づけなし)(正確な金額は不明)
○秘書給与2100万円(政策秘書、第1秘書、第2秘書)

c. 政党助成金による負担 — 1議員あたり約4500万円

助成金の総額は、国民1人あたり年間250円と決められ、人口を元に計算される。
政党への配分に関しては、半分は所属議員数の割合に応じて配分され(議員数割)、後の半分は国政選挙の得票率(衆議院議員総選挙と過去2回の参議院議員通常選挙)に応じてに配分される(得票数割)。

2021年の実績は、wikipediaの関係項目によると、総額で317億7336万円。
自由民主党 169億9478万円
立憲民主党 68億8394万円
公明党 30億0799万円
日本維新の会 19億2245万円
国民民主党 23億4971万円
れいわ新選組 1億8153万円
社会民主党 3億0970万円
NHKと裁判してる党 1億7053万円

2024年の実績では、総額315億3652万円。
自民党 160億5300万円、
立憲民主党 68億3500万円、
日本維新の会 33億9400万円、
公明党 29億800万円、
国民民主党 11億1900万円、
れいわ新選組 6億2900万円、
社民党 2億8800万円、
参政党 1億8900万円、
教育無償化を実現する会 1億1800万円
(共産党は政党交付金の制度に反対して、交付金を受け取っていない。)

この総額を、国会議員数(713)で割ると、一人につき約4500万円が政党に助成金として与えらていることになる。

(注)政党助成金(交付金)は、金権政治が批判される中、1994年に制度化された。
その際、 企業や労働組合などの団体からの献金禁止を前提にしたにもかかわらず、企業団体献金を禁止しなかった。そのために、政治パーティーなどの名目で献金を集めると同時に、税金からも助成金を受けるという、二重取りの状態になっている。つまり、ある一定の団体からの影響を受けないために作られた制度でありながら、実際には、中身が骨抜きになっているという現状がある。

2)支出内容

大きく分けて、二つの支出先が考えられる。

a. 法律や予算の審議のため
各議員は、様々な委員会に提出される議案を検討する準備として、議案で対象とされる内容について現地調査などをする必要も出てくる。そのための費用。

b. 事務所、後援会、選挙活動等
地元事務所に多数の秘書を置き、政治団体(数は無制限)=後援会を維持し、選挙ではポスター貼りなどの広報活動を行うための費用。

3)費用対効果

ある議員の報告によると、各種の委員会に提出される調査報告書や関連法案の資料は膨大な量になるという。つまり、議員の仕事は、役人が準備した資料を読み、検討することにある。
従って、立法のために議員が果たしている役割がどの程度なのか、明確に判断することは難しい。

他方、713人いる議員一人に約1億円の税金が使われるとすると、年間では約700億円。その上に、議長職、大臣職の手当など含めれば、さらに額は膨らむ。

さらに、選挙にかかる費用を含めれば、議会制民主主義のコストは、年間一兆円程度になるのかもしれない。


「民主主義にはコストがかかる」とよく言われるが、実際の費用対効果についてはなかなか明らかにならない。

ここでは国会議員だけの数字を上げたのだが、県会や市会など地方議会を含めると、どれだけの税金が使われているのか。
その費用対効果も考えていくと、議会制民主主義にかかるコストが膨大なものであることがさらにはっきりする。

そのコストをかけてでも、この制度を維持することで、民主主義を基盤として自由と平等を根本思想とする国家運営を行い、非民主的と言われる政治制度を有する国にならない選択をすることも一つの道だといえる。

そのコストパフォーマンスをどのように考えるのかは、私たち一人一人の思想や感情によることになる。

。。。。。

2023年2-3月のフランスの状況を見ていると、議会制民主主義=代議制は機能しないところまで来ているのではないかと思えてくる。
では、他に代わるべきどのような政治制度があるのか? 
現代社会は、難しい問題に直面している。


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