行動に関する予想外

アリスの不思議な国では、言葉だけではなく、全てのことが予想をくつがえしながら進んでいく。物事は決して型通りには運ばない。「こうすればこうなる」という自動化された連結が次々に破壊される。
なぜそんなことになるのだろうか?
アリスがドアを開けて、部屋に入る場面を考えてみよう。
一般的には、アリスという主体がいて、彼女が部屋に入りたいと考え、ドアを開け、部屋に入っていくとみなされる。次に、部屋の中でテーブルの上にある飲み物を飲むとすると、同じ主体が飲みたいと考え、コップに手を伸ばし、それをつかみ、口に運び、ジュースを飲むという行為の連続が想定される。
動作主であるアリスがまず存在し、彼女が行動を決定し、実行する。

こうした普通の考え方に対して、アリスの不思議な国では、動作の方が主体よりも先にくる。まず行動があり、その後から、それをした人が想定される。ドアを開けるという行為があり、それから、それをした人が誰かという問題が出てくる。
こうした行動中心の視点を最もよく表現しているのは、チェシャ猫である。
公爵夫人の台所の中で、チェシャ猫は耳から耳まで届きそうな大きな口をあけて、ニヤニヤしている。
アリスが森の中に行くと木の枝の上に突然現れ、また消える。そこでアリスはこう呼びかける。
