現実の他に何があるのか? プラトンのイデア アリストテレスの形相 

「現実の他に何があるのか?」という問いは何か変な感じがするが、ヨーロッパ的な考え方を知るためには、こんな問いから始めるのがいいかもしれない。

(1)プラトンにおけるイデアと現実

古代ギリシアの哲学者プラトンは、現実の事物は時間が経てば消滅する儚い存在だと考え、そうした存在を超えて永遠に存在する確かなものはないかと問いかけた。
そして発見したのが、イデアだった。英語のideal(理想)の語源となる言葉。

プラトンにとっては、イデア界こそが真に実在するものであり、現実世界はイデア界のコピーあるいは影にすぎない。

もちろん、現代の私たちはプラトンの言うイデア界があるとは信じられない。アダムとイブの楽園や浦島太郎の竜宮城のように、空想の産物だと思うだろう。
というのも、私たちの世界観の基礎には科学的な思考があり、実験によって物理的に確認できないものが実在するとは認められないからだ。
目に見え、手で触れ、香りを嗅ぎといったように、五感で感じ取ることのできるものが、現実世界を構成する。

しかし、少し考え直してみると、感覚に騙されることがあったりもする。
同じ物を触ったとして、より熱い物の後だとそれほど熱く感じないし、冷たいものを触った後ではひどく熱く感じたりする。同じ長さのものでも形によって違う長さに見える。そうした心理学的な錯覚実験があるのもそのためだ。

そのように考えると、「現実とは何か?」という問題も、実際のところそれほど簡単ではないことがわかってくる。

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ボードレール 肖像画について 1846年のサロン — 歴史と小説

ボードレールは『1846年のサロン』の中で、肖像画(portrait)を理解するには、二つの様式があるという。一つは歴史、もう一つは小説。
Il y a deux manières de comprendre le portrait, — l’histoire et le roman.

歴史的理解の代表は、例えば、ダヴィッドの「マラーの死」。
小説的理解の代表は、トーマス・ローレンスの「ランプトン少年像」。ルーベンスの「麦わら帽子」も、後者に含まれるかもしれない

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