非現実世界への入り口
グリム兄弟は、童話集第2版の序文の中で、残酷な場面の正当性を主張しているが、その一方で、残酷な行為からリアリティを取り除く民話的な語り口も採用している。
その最初の手段が、物語の入り口に置かれる「昔むかし」という言葉である。この決まり文句は、これから話される出来事が、架空の世界で起こることを予告する役割を果たしている。

「かえるの王様」では、手書きの原稿にはなかったその表現が、初稿で付け加えられる。そして、その有無によって、読者が受ける印象は全く違うものになる。
王さまの末の娘が森へ出かけて行きました。(初稿)
むかしむかしあるところに王さまの娘がいました。この娘が森へ出かけて、冷たい泉のほとりに腰をおろしました。(初版)
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