サン=テグジュペリ 『星の王子さま』  Antoine de Saint-Exupéry Le Petit Prince ポエジーの源

『星の王子さま』で最もよく知られているのは、子供の頃に書いたヘビの絵、王子さまとバラの諍い、王子さまとキツネの会話だろう。確かにそれらのエピソードは印象深い。

それらに比べると、一般的には少し忘れられているように思われる、美しいエピソードがある。
それは、不時着から一週間後、パイロットが王子さまと一緒に、砂漠の中で一つの井戸を探すエピソード。
映像と音楽が響き合い、抒情的な詩情(poésie)が生み出されている。

砂漠の真ん中に不時着してから一週間が経っても、飛行機の修理は終わらない。それなのに、小さな王子さまはのんびりとキツネの話を続けようとする。
そんな時、パイロットはとても喉が渇き、王子さまと一緒に井戸を探しに砂漠の中を歩き始める。

 Quand nous eûmes marché, des heures, en silence, la nuit tomba, et les étoiles commencèrent de s’éclairer. Je les apercevais comme en rêve, ayant un peu de fièvre, à cause de ma soif. Les mots du petit prince dansaient dans ma mémoire:
– Tu as donc soif, toi aussi ? lui demandai-je.
Mais il ne répondit pas à ma question. Il me dit simplement :
– L’eau peut aussi être bonne pour le cœur…
Je ne compris pas sa réponse mais je me tus… Je savais bien qu’il ne fallait pas l’interroger.

何時間も何も言わずに歩いていると、夜になり、星たちが輝き始めた。それらの星をぼくは夢の中にいるみたいに見ていた。ちょっと熱があったし、喉が乾いていたんだ。小さな王子さまの言葉が、ぼくの記憶の中で踊っていた。
「坊やも喉が渇いているのかい?」と彼に尋ねた。
でも、彼はぼくの質問には答えず、ただこんな風に言った。
「水は心にもいいんだ・・・。」
ぼくはその返事が理解できず、黙ってしまった・・・。王子さまに質問してはいけないことは分かっていた。

1分11秒から

夜、真っ暗な砂漠の上に星々が光り始める。孤独と喉の渇きに苛まれていたとしても、その光景の美しさは心を打つものがあるだろう。
パイロットも、夢の中で星を見ているように思う。

その光景の中で王子さまが言った言葉は謎めいている。
「水は心にもいい。(L’eau peut aussi être bonne pour le cœur…)」
そして、「その言葉がぼくの記憶の中でダンスを踊る(Les mots […] dansaient dans ma mémoire)」。

この場面は、砂漠の夜の景色だけでなく、言葉自体が謎めいた美しさを持ち、詩的な効果を上げている。

 Il était fatigué. Il s’assit. Je m’assis auprès de lui. Et, après un silence, il dit encore:
 - Les étoiles sont belles, à cause d’une fleur que l’on ne voit pas…
 Je répondis “bien sûr” et je regardai, sans parler, les plis du sable sous la lune.
 - Le désert est beau, ajouta-t-il…
 Et c’était vrai. J’ai toujours aimé le désert. On s’assoit sur une dune de sable. On ne voit rien. On n’entend rien. Et cependant quelque chose rayonne en silence…
 - Ce qui embellit le désert, dit le petit prince, c’est qu’il cache un puits quelque part…
 Je fus surpris de comprendre soudain ce mystérieux rayonnement du sable. Lorsque j’étais petit garçon j’habitais une maison ancienne, et la légende racontait qu’un trésor y était enfoui. Bien sûr, jamais personne n’a su le découvrir, ni peut-être même ne l’a cherché. Mais il enchantait toute cette maison. Ma maison cachait un secret au fond de son cœur…

 王子さまは疲れて、腰掛けた。ぼくも王子さまの横に座った。しばらく黙った後で、彼はまたこう言った。
 「星たちがきれいだね。目に見えない一本の花のおかげ・・・。」
 ぼくは「もちろん」と応えただけで、それ以上は何も言わず、月に照らされた砂のうねりを見た。
 「砂漠ってきれいだね。」と、彼は付け足した。
 本当にそうだった。ぼくはずっと砂漠が好きだった。砂丘の上に座る。何も見えないし、何も聞こえない。でも、何かが静かに輝いている・・・。
 「砂漠がきれいなのはね」と小さな王子さまが言った。「どこかに井戸を隠しているからだよ。」
 ぼくはびっくりした。突然、砂漠の神秘的な輝きが理解できたんだ。小さかった頃、ぼくは古い家に住んでいた。言い伝えでは、宝物がそこに埋められているということだった。もちろん、誰も宝物を発見しなかったし、たぶん探す人もいなかった。でも、その宝物が家全体に魔法をかけていた。ぼくの家は、心の奥に一つの秘密を隠していた・・・。

ここでの王子さまは、美にとりわけ敏感な様子を見せる。星々の美しさ、砂漠の美しさ。
そして、その美しさの秘密は、目に見えない花とか、どこかに隠れている井戸のおかげだと、「ぼく」に伝える。

一方、先ほどは王子に言葉の意味がわからないといった「ぼく」も、今度は理解し、自分の体験を語り始める。

この場面で、サン=テグジュペリはフランス語の動詞の体系を巧みに使い分けている。王子との物語の進行は単純過去。「ぼく」の子供時代の体験は複合過去。
https://bohemegalante.com/2019/05/18/systeme-temps-verbe-francais-2/

例えば、Il s’assit. Je m’assis(彼は座った。ぼくは座った。)は、単純過去。その時制によって、語り手とは無関係の、物語の中で進行する出来事であることが示される。
それに対して、j’ai (…) aimé le désert(ぼくは砂漠が好きだった)は、複合過去。語り手の体験が読者に伝えられる。

さらに、王子さまの言うことが理解出来たことにびっくりするのは、物語の中の「ぼく」。「驚く(je fus surpris)」の単純過去で示される。
他方、子供の頃住んでいた家の思い出の中では、複合過去が使われる。(personne n’a su […], ne l’a cherché.)

日本語では、単純過去(王子さまとの出来事を語る物語)と複合過去(語り手の思い出)を区別しないために、フランス語による表現の違いを理解するのは難しい。
逆に言えば、フランス語で読むからこそ、サン=テグジュペリの意図をよりよく理解できることができる。

砂漠の井戸を探す場面でなぜその違いが効果的に使われているのか?
その理由は、物語の中の王子さまの言葉と「ぼく」の子供時代の体験が重なることが、示されるからである。
王子さまは、見えているものの後ろには見えないものが隠されていて、そのおかげで、目に見えるものは美しいと言う。
語り手の「ぼく」が子供時代に住んでいた家は、宝物を隠していた。パイロットは、王子さまの言葉のおかげで、その家がなぜ魅力的だったのか理解することができる。
王子さまの言葉がパイロットに、過去の体験の意味を教えてくれる役割を果たしているのである。

次に、二人が井戸を発見した場面を見ていこう。(次ページに続く。)

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