鴨長明は『方丈記』の前半で、四つの自然災害と一つの人災を、非常に生き生きとした描写で描き出す。
その目的は、序の中で言われた、「その主(あるじ)と栖(すみか)と、無常をあらそふさま、いはば朝顏の露にことならず。』という言葉を具体的な事実として語るためである。
そして、5つの災害を語り終えた後には、「すべて世のありにくきこと、わが身と栖(すみか)との、はかなく、徒(あだ)なるさま、又かくのごとし。」と、この世のはかなさ、無常さが再確認される。
従って、長明の意図は明らかなのだが、ここで注目したいのは、長明の視線が細部に渡り、描写が実に生々しく描かれていること。
その様子は、平安時代末期から鎌倉時代に描かれた六道絵や、「地獄草紙(じごくそうし)」、「餓鬼草紙(がきそうし)」、「病草紙」などの絵画を連想させる。
それらは、10世紀末、平安時代の中期に書かれた源信の『往生要集』などで説かれた六道、つまり、 「地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人間、天人」を映像化したものと考えられる。
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鴨長明は、実際に自分が体験した悲惨な状況、しかも1177年から1185年というわずか8年のあまりの間に起こった度重なる災禍を、六道に匹敵するものとして、絵画ではなく言葉で描き出したのだった。
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