ネタバレはあり? 映画の場合

ネット上では、「ネタバレあり」とか「ネタバレ注意」とかいうように、「ネタバレ」という言葉にしばしば出会う。
映画であれば、あらすじを最後まで語るとか、とりわけ最後に準備されている大どんでん返しをバラしてしまうと観客の楽しみが損なわれると考えられ、「ネタバレ注意」と言われることがある。

しかし、ふと振り返ってみると、好きな映画ならば、2度、3度と見ることはよくある。その場合には、ネタはバレている。でも楽しむことができる。

そんなことを考えながら、ネタバレについて考えてみよう。

出発点は、ビリー・ワイルダー監督の「情婦(原題:Witness for the Prosecution」)。
アガサ・クリスティの短編小説「検察側の証人」が原作で、最後の最後に大々どんでん返しがあり、本当に面白い。
そして、映画の最後に、次のクレジットが入る。

The management of this theater suggests that, for the greater entertainment of your friends who have not yet seen the picture, you will not divulge to anyone the secret of the ending of Witness for the Prosecution.

要するに、映画をまだ見ていない友だちが最大限に楽しめるように、映画の最後に置かれた秘密を漏らさないようにして下さい、という内容。

最初に「情婦」を見た時、マレーネ・ディートリヒ演じるクリスチーネが、敏腕弁護士をまんまと欺いて、愛する男の無罪を勝ち取った場面で映画が終わると思うのに、彼女が裏切られる結末に至り、本当にびっくりした。
wikipediaの「情婦」の項目で「ストーリー」を見ても、その結末は書かれていない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%83%85%E5%A9%A6_(%E6%98%A0%E7%94%BB)

フランスで2014年に公開された「ボヴァリー夫人とパン屋(原題:Gemma Bovery)」の監督アンヌ・フォンテーヌが来日して開催されたトークショーでも、監督は聴衆に向かい、最後のどんでん返しを映画を見ていない人に話さないようにと告げていた。

主人公ジェンマの死に際して、元の恋人とからみ合っているところを夫に見つけられ、夫がジェンマを殺したのではないかと思わせるシーンがあるのだが、その後、葬儀には夫の姿が見られる。では、犯人は元の恋人だろうか? しかし、葬儀の後にその男も夫と話す姿が見られる。その後真相が語られるのだが、アンヌ・フォンテーヌも、ビリー・ワイルダー同様、映画を見る前に結末を知って欲しくないと望んだのだった。

確かに、二つの映画ともに、最初に見た時には、最後のどんでん返しに驚き、予想外の展開に快感を覚える。

ストーリーは映画の大きな要素だし、映画の解説を読むと、ストーリーの展開を語っているだけということもある。
逆に、ストーリーのはっきりしない映画は、面白くないとか、難しくてわからないと感じることが多い。
観客が映画の進行に付いていくためにも、映画を面白いと感じるためにも、ストーリーが大きな役割を果たしていることは確かである。

しかし、好きな映画とかいい映画であれば、もう一度見直すこともある。もう「あらすじ」は知っている。としたら、何を求めているだろう?

映画は視覚と聴覚に訴えかける芸術である。
そして、その二つの感覚が、映画には不在の触覚、臭覚、味覚を喚起することで、スクリーン上に疑似的な現実世界(あるいは超現実空間)を生み出す。

観客は、その疑似世界の中で、登場人物たちの行動に立ち会い、彼らの会話に耳を傾ける。
「情婦」のマレーネ・ディートリヒが、別の女に変装していたことを明かす場面、その巧みさに弁護士と同じように驚く。
ジェンマ・ボヴェリー夫人がパン生地を捏ねる身振りに、多少のコミックな官能性を感じる。

カーチェイスの場面ではリアルなスリルを感じる。
美しい自然の光景、独特な建造物、古い街並み等の美しさに心を動かす。
登場人物たちの言葉に納得したり、感動的な場面では自然に涙が流れてくる。
こうして、自分でも気付かないうちに、感覚的に映画の様々な要素を受け取り、それらに反応している。

少し疑似世界から身を離す場合には、俳優の演技の上手さに感嘆したり、バックに流れる音響効果や音楽に注意を払うこともある。

そのように考えると、私たちは映画を体全体で感じていることがわかり、ストーリーは映画の一部でしかないと再認識できる。

確かに、最初に映画を見る時には、物語の展開にハラハラドキドキしたいかもしれない。しかし、あらすじを知っていても映画は十分に楽しむことができる。
その意味では、「ネタバレはあり」だと言える。

もっと言えば、物語の展開を知った上で映画を見た方が、多角的に映画を見ることができ、楽しみが広がる。発見も多い。
そうした意識を持っていると、初めて見るときでも、映画をより楽しめるだろう。

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