日本の現状について様々な情報がもたらされるが、しばしばそれぞれが特定の話題に特化しているために、総合的な視点から現在の日本の現状を把握することがけっこう難しかったりする。
ここでは、いくつかの経済的な視点をまとめながら、今の日本を読んでみたい。
経済に視点を置くのは、家庭の経済的な格差が子供の学力に影響し、その結果、社会的格差が固定化される傾向が強いと考えるからである。

もちろん、これは一般的な傾向であり、例外があることは当然のことである。
しかし、この結果が例外的な例ではないことは、日本の相対的貧困率の高さが示している。

この悪循環から抜け出すためには、社会の構造を変えない限り、学歴を上げるしかないというのが現状である。
(1)学歴と年収
義務教育以降の子供たちの状況を見ると、進学率が非常に高いことがわかる。

高校の進学率は男女とも約95%
高校生たちの状況を見ると、男子の56%、女子の50%が大学に進学。専門学校に進むのは、男子20%、女子27%。
なぜこれほど進学率が高いかといえば、基本的には、学歴によって収入格差が生まれるから。学歴による年収の差は大きい。

従業員数1000人以上の企業の場合、高卒と大卒の年収は200万円違う。100人以下の場合でも100万円の違いがある。
非正規雇用の場合、差はさらに広がる。

正規雇用と非正規雇用の賃金格差は、男女ともに倍以上。
大学卒業後、従業員1000人以上の企業と勤めた場合と、非正規の場合の「年収差」は、男性であっても400万円以上。女性であれば、500万円の差がある。
シングルマザーの家庭の50%が相対的貧困層に属すると言われるが、非正規で働く女性の年収は相対的貧困と言われる水準(127万円)をわずかに超える程度にすぎない。
こうした状況の中で、個人の努力で経済的な格差を埋めることは、非常に困難な課題だと言わざるをえない。
(2)経済発展と経済格差
日本はバブル崩壊後経済が停滞したと言われることがある一方で、2022年においても国内総生産(GDP)はアメリカ、中国に続き、世界第3位の経済大国と言われることもある。
その矛盾した情報がどうして生まれてくるのだろう?
理由は、労働生産性が上がっているのに対して、賃金水準はバブル崩壊後まったく上昇しないことにある。

1991年から2019年の間に、日本でも労働生産性は100から149まで上昇している。しかし、年収はわずかに3しか上がっていない。
海外に目をやると、アメリカであれば、労働生産性が159上がれば、年収もそれに対応して148まで上がっていた。他の国でも一定の相関関係がある。
それに対して、日本では、国の経済状況が好転したにもかかわらず、個人の賃金にまったく反映しなかった。

このグラフは、1990年から現在まで、多くの日本人の給与が上がらなかったことをはっきりと示している。
しかし、これはあくまでも平均値であり、男・女、正規・非正規の違いに従って給与格差は大きく、その差は開くばかりになっている。
超富裕層40人と、貯蓄ゼロ層を比較したグラフがある。(2012-2016)

2012年から2016年の5年間だけで、超富裕層の資産はほぼ倍増した一方、貯蓄ゼロの世帯は全世帯数に占める割合が10%も上昇した。
この傾向は世界的な傾向であり、1990年代半ば以降に世界全体で増えた資産の38%を、超富裕層にあたる上位1%だけで独占しているという統計結果がある。
富裕層を上位10%まで範囲を広げると、世界中の資産総額の75.6%が富裕層によって所有されている。
日本だけに限っても、2011年以降の超富裕層・富裕層の数は大きく増えている。

コロナ禍の中でも増加傾向は変わらず、2022年には富裕層は149万世帯に達した。
2021年の統計では、以下のような分類がなされている。

富裕層が増加するのに対して、その反作用のようにして、貯蓄ゼロの層も増加している。

このグラフは2016年までのものであり、貯蓄ゼロの世帯の数はコロナ禍の中でさらに増えたものと推測される。
このように見てくると、日本経済の回復は決して国民全体の生活の向上につながったのではなく、経済格差を増大させる方向に働いたのだということがわかってくる。
(3)日本の今後
日本の人口は急激に減少しているが、この状況が続くことは、老齢化が進み、それにともない国家予算の中で年金や医療費の占める割合が益々大きくなることに直結する。

生産年齢の人口が減少し、老齢者の数が増加することは、現在でも上昇を続けている社会保障費をさらに増大させる。

1990年代から現在までの年金と医療費の増加は、日本の人口が高齢化した結果を反映している。
そして、その予算の多くは、税金だけで賄えるわけではなく、国債つまり借金によって補う状態が続いている。

約30年前の1990年代には80兆円程度だった国家予算が、現在では30兆円増加し、2022年度には110超億円に達した。
そのうち、社会保険と国債(借金)の返済に半分以上の約60兆円が宛てられている。

高齢化社会は、社会保障費の比重をさらに高める。その財源をどこから確保するのか。政治は非常に難しい課題を背負い、将来に向けた経済政策を行うことが必要となる。
物事を判断する基準は、自分の置かれた状況に基づくことが多く、全体の状況を自分の視点からのみ見る傾向がある。
その結果、日本の現状をそれほど変える必要はないと考える人々もいれば、大きな変化を望む人々も出てくる。
日本の現状に対する対処法にも色々な考え方が出てくるのだが、一旦は自分の視点を横に置き、全体像を眺め、そこから自分の視点を見直すことは意義のあることだろう。